Gate lain

*****
「もうっ、どうしてこんな無茶ばかりするんですか!」
アリスが、私の体に包帯を巻きながら、そんなことを言った。
心なしか、包帯を巻く力が強いような………。
「ごめんごめん、いっ!」
「バーサーカーにやられて、これだけですんでよかったですね」
ぷんぷん、と可愛く怒りながら、治療を続けるアリス。
「そうか、私バーサーカーにやられたのか」
腕の傷口に消毒液がしみる。
とにかく全身が痛かった。かなり痛い。もうどうしようもなく痛い。
全身打撲に、腕の骨にひびが入るという大怪我。
まぁ、ただでさえ別格の腕力を持つサーヴァント。更に精神と引き換えに腕力を強化したバーサーカーに突 進されて、これだけで済んだ、と喜ぶべきなのか。
それとも、運が悪かったと嘆くべきなのか、正直分からない。
「これぐらいで済んでよかったに決まっているじゃないですか。もうっ、吃驚したんですからね!セイバーさんが、華が手におえない怪我をしたから助けて欲しい、と言ったときは」
まぁ、確かに自分でも悪かったと思っている。
一応監督役として、仕事を行おうとしたら
「いいですから、休んでいてください」
と言われたから、しかたなく休んでいたのだ。しかし、そんなときに強大な魔力を感じて、その魔力がキャスターのだと気付き、居てもたっても居られなくなってしまったのだ。
結果魔力が底をつき、しかもキャスターまで失い、そして私は大怪我………無様なものである。
「遠坂たるものどんなときでも優雅たれ、遠坂家の家訓、守れてないなぁ……」
自分の悲惨な姿を眺め、その姿にため息をつく。
やはり、私には向いていない。遠坂の跡取りは私では駄目なのだ。そもそも、埋葬機関に入った私が、魔術師である遠坂の敷居を跨いではいけないはずだった。
本来、葉が住んでいる衛宮家には、遠坂を離反した私が居るべきだ。
とことん、立場が逆である。
全身に包帯を巻かれ、いたるところが軋む。
これは、当分は動かないかもしれない。まぁ、それもいいか。
私が動かなくても、他のやつらは勝手に消しあってくれるんだから。だったら私はその間に体力を回復させて、最後に残ったマスターを倒せばいい。
そして、聖杯を、壊す。
今度こそ、完膚なきまでに、壊してやる。
「はい、終わりです。もう、無茶はよしてくださいね。せめて、私かセイバーさんを連れて行ってください。そうすれば負担は軽くなりますから」
アリスは純粋な笑顔で、私に言い聞かせた。
………なんだ、この感じ。私のほうが先輩なのに。
まぁ、いいか――――。
「はぁ、それにしても大きな痛手ね。キャスターを失うなんて。………まぁ、最後の令呪を使ったんだし。覚悟はしてたけどさ」
「確かに、彼はなんだかんだいって強いですし。私がいれば負けるということはありませんが、キャスターがいれば、守備範囲と攻撃範囲が広くなったでしょうし。この戦いも有利に進むことが出来たでしょう」
アリスは、椅子をセイバーに譲りたっている。
こう、なんというかまるで(いや、まるでではないが)病人のような扱いだ。
なんともむず痒い。
「ふう、まぁね。でもあの調子だといつ裏切ってもおかしくない状態だったわ。自分が勝利する為に、一番簡単な方法をとる。目的のためなら手段を選ばない、じいちゃんってそんな性格だったっけ?」
まぁ、本当に病人なので、少々のむず痒さは我慢することにして、そばに座るセイバーに問いかける。
おじいちゃんのパートナーだったというセイバーなら詳しく知っているだろう。
なんでも、セイバーを召喚して戦っていたのはおじいちゃんなのだから。
「いえ、アーチャーのことは分かりません。この世界の士郎がキャスターならあそこまでひねくれていなかったはずです。終身の間際に何か起きたか、なんらかの理由で捻くれたなら分かりますが、私には分かりかねます。終身を見たわけではないので。私はずっとこの家にいましたし」
つまり、終身の間際何か起きた、というわけか。
もしくは―――――。
「ねぇ、セイバー。並行世界のもしもと、この世界が混ざり合う、ということは無いのかしら?たとえばその世界に並行世界の同一人物が来て、記憶と記録を混同させるって言うのは?」
「………――――、その、あまりよく分からないですが。そういうわけではないのではないのでしょうか?もしも、キャスターとアーチャーが同一人物になると矛盾が発生しますから」
世界の矛盾。
食い違い、歪みの元―――――か。
確かに、そうかもしれない。
アーチャーにアーチャーの記憶があるとすれば、キャスターには、キャスターの記憶がある。
英霊・エミヤという点では大本は一つ。
つまり、どの世界に召喚されても、世界は矛盾を起こさせないように、その世界で衛宮士郎が辿った結末を書き込むということか。
それは、行く場所によってカーナビの記録を書き直すみたいな。
無限の並行世界で辿った記録を、召喚される英霊・エミヤに書き込むのだ。
つまり、
「おそらく、なにか起きたのでしょう。彼の身に。彼の性格を歪ませる何かが」
そう、キャスターはキャスター。アーチャーの記憶を知っていたのは、自分も衛宮士郎としてアーチャーに会ったことがあり、戦ったことがあるから。
では、何が原因なのか?
「………今は、いいわ。ちょっと疲れた。寝かせて」
怪我と、魔力の大量損失。頭を悩ませるでき事で疲労が凄いことになっている。
「そうですね。先輩は休んでください」
もう、深夜近くなっている。
この二人にも悪いことをした。こんな遅くまで、私につき合わせてしまった。
「別にいいですよ。倒れたその日に目覚めてくれてよかったです。このまま眠ったままでいられたほうが私は困りますから」
成程。それは私も困る。
少しは回復力の高いこの身体に感謝というわけだ。
「そうか、昨日はアインツベルンと戦って、そのダメージが消えないうちに今日キャスターと戦ったのね。随分時間の流れが遅く感じるわ」
流れが速いようで、遅い。
戦いが始まって、約2日しかたっていないなんて。驚きだ。
「はい、ですから、先輩は眠ってください。その間、私がこの家を守りますから」
「では、私も手伝いましょう」
セイバーが席を立ち、アリスが部屋から出て行く。
私は、その背中に感謝とお休みの挨拶を伝えた。
「はい、お休みなさい」
くすり、と微笑んだアリスの笑顔はとても、まぶしかった。
あのこも、最初の頃と随分変わったものだ。最初、私と初めて出会った頃。瞳は虚ろで、生気というものが無かった。まるで生ける屍だ。
それを立ち直させたのは、私だ。
今でも覚えている。
あれは。
*****
5年前。
「お前の後輩だ。世話をしてやってくれ。いずれは相棒となってお前を救ってくれるだろう」
私が世話になった埋葬機関の女は、そういって随分みすぼらしい子供を預けていった。
まだ、こどもの幼さが残る顔で、彼女は呆とした無表情で私を見上げた。
当時私は17歳、アリスは15歳。
私が埋葬機関に入って、半年以上経った頃の話だ。
「あんた、名前は」
自室まで一緒にされた私は不満たらたらで、とにかく名前ぐらいは聞いておこうと尋ねたのが私とそのみすぼらしい子供のファーストコンタクトだった。
「私は、………アリス。アリス・アルワイン」
錬金術師についても、魔術書で知っていたからその名前にも聞き覚えがあった。
アルワイン。代々、素晴らしい錬金術師を生み出してきた名門。他の錬金術師と違うところは、頭脳だけではないということ。アルワインは知識と技術が特化したエルトナムと並ぶため、知識だけではなく、魔術にも特化させたのである。魔術回路を持たぬものが多いアトラス院では珍しい魔術を行使する錬金術師だった。 そのぶん、戦闘に特化し、アトラスの門番とも言われているのだ。
しかし、そのアルワインの娘がどうして埋葬機関にいるのかが気になった。
その好奇心が、私とアリスの関係を大きく変えたのだと思う。
その日、私にとってただ邪魔でしかない子供は、少しばかり特別な存在になった。
「あいつは、埋葬機関とアルワインのパイプラインに売られたのさ」
女は言った。
確かに、魔術師おまけに錬金術師は神秘を穢す、埋葬機関にとって神を汚すのは異端。よって、排除の対象になりえるかもしれない。
だけど、パイプラインを作っていることで、少しばかり状況を打開したかったのだろう。
埋葬機関は殺戮を生業とする暗殺集団。
そんなやつらに狙われるぐらいだったら、一人の娘を生贄にするのは痛くないのだろう。
まぁ、魔術師とはそんなものだ。
「貴方」
だから、ちょっとした同情で部屋の隅にいるアリスに話しかけた。
「………―――――」
相変わらず、死んだ魚みたいな眼で私を見上げる。
その目が、気にくわなかった。
バシンっ、とその頬を張り飛ばした。
「情けない顔で私を見るな!そんな表情をしていいのは、本当に希望を失ったものだけよ。貴方にはまだ未来があるじゃないじゃない。なのに、そんな顔するなんて私は許さない。未来を失い、希望を失って、もうどうしようもない絶望を感じたなら、それは仕方ないかもしれない。だけどね、あんたはまだいけるでしょう!踏ん張って、生きなさい」
今でも、思い出せば懐かしくて微笑が自然ともれる。
だって、あまりにもこの頃の自分はストレートすぎるから。
「貴方に何が分かるの」
口角を歪ませて、皮肉を精一杯口にして。
この子でも、憎むという感情はあるんだな、と。
少し安心した。だって、何も考えない人形のようだと思っていたし。
そんな彼女に私は、ああそうか。と一人納得して。
「あんたさ、そんな顔が出来るならさ、世界を憎みなさいよ。無表情はやめなさい。酷い目にあったら、世界が悪い。そう考えれば少しは楽でしょう?だったら、世界に復讐するつもりで生きなさい。………―――――ほら、生きる理由が出来たじゃない」
そういって、私は照れくさそうに笑ったんだっけ。
その顔を不思議そうに眺めて、アリスは面白そうに笑ったんだ。
「はは、そうね。そうしよう。世界を憎む、か。おもしろいですね、貴方」
その笑顔で、私は初めて純粋に笑ったような気がする。
埋葬機関という閉鎖した空間に飽き飽きしていたのは、私だって同じだったから。
その後、共に鍛錬をし合って、足りない知識を補い合って、足枷だったあの子供は、5年も連れ添ったことで、心強い相棒になった。
楽しかった。
辛い修練も、苦しい鍛錬も。
お互いに、手を取り合って乗り越えた壁。絆は誰よりも深い―――――――――。
*****
「おはようございます」
「え?お、おはよう」
凄い勢いで飛び跳ねた私の耳に、落ち着いたセイバーの声が響く。
セイバーは紅茶を啜り、私の横にいた。
「いつからそこに?」
見る分にはもう大分日が高く昇っている。随分寝ていたようだ。疲れていたからだろう。まぁ、アレだけ一気に魔力を消費したのは、初めてのことだったからかもしれない。
「大体、7時ごろです。ついでに今の時刻は11時です」
そうか………、12時間は寝ていたわけだ。
確かに昨日よりも活力がみなぎっている。それに、体の傷も少しずつだが癒えてきているようだ。
とにかくそれだけは幸いというべきか。
「そう、私が寝ている間、変わったことは?」
「いえ、ありませんでしたが。昨日言い忘れていたことがあったのを思い出しました」
「………何」
思わず口調が固くなったのを自分でも感じ取る。
私の埋葬機関としての常時警戒態勢は少しばかり敏感すぎるようだ。
「昨日、貴方を運んできたのはアーチャーなのですが。その指示をしたのは貴方の妹です」
(……)
「―――――――なんですって」
私はアーチャーの姿を見ていないが、気絶した他のマスターを(しかも、サーヴァントなし)他のサーヴァントに助けるように命じたのが、葉だって―――――?
あいつは、アーチャートいう他の魔術師のサーヴァントに私の救出を命じただと?
「あいつは、自分がマスターだってこと自覚してるのかしら」
憎しみが、言葉に乗り、殺気となり室内に充満していく。
あいつは、私が憎い。そして、私も憎い。だったら、あそこで殺せばよかったのに。いや………殺すべきだったのだ。
なのに、どうして。
「どうして、葉が貴方を憎んでいると分かるのですか?」
ふと、セイバーがそうなことを問いかけてきた。
そんなの、決まっている――――――それは。
「あれ?」
「………ようやく気付きましたか?あなた方はその時点ですれ違っていたのです。華、貴方は少なくとも憎んでいるかもしれません。ですが、葉が憎んでいる……とは限らないのではないですか?私からいわせていただければ、華は葉の事になると冷静さが失われるように思えます。つまり、気にしているのですよ。その感情が憎しみでも、貴方は葉を気にしている、ということに変わりは無いのですから」
違う。
私は憎んでいる。
憎んでいるんだ。
私が、どんな思いで遠坂を離反して、埋葬機関の狗に成り下がって、魔術をやめて、此処まできたと思っているんだ。なのにあいつは。
「………凛もそうでしたが、頑固というのもいい加減にした方がいい。考えてみてください。貴方が葉に当主の座を譲ったのと同じように、葉だって、貴方のためを思って衛宮の家を継いだのですよ」
(………まさか)
「そんな、だって、あのこの方が」
優れている。勝っている。なのに、どうして――――。
「そのすれ違いが、貴方たちを裂いていたのですね。どちらが優れているとか、そんなこと葉にとってどうでもよかったのです。貴方が優れていると思う葉が追い続けていたのは、あなたの背中なのですから」
私は葉の方が優れているから、だから当主の座を譲り、自分は魔術から身を引いて埋葬機関に鞍替えした。
だけど、葉はそんな私が戻ってくるのを当主の座につかないでずっと待っていたというのか。
「どうして、あんたは」
なら、そういってくれればいいのに。
そうすれば、私はあんたをそこまで突き放しはしなかったのに。
「………本当はあなた方姉妹が自然と分かり合うのを待つつもりでしたが、大変な時期ですので、強硬手段に出ました。今度あったときに仲直りしてくださいね」
セイバーは深くため息をつき、苦笑した。
私が柄にもなくシュンとしているからであろう。確かに自分でもそう思う。自分らしくないなと。恥ずかしいものである。
その時。
「「!?」」
私とセイバーは同時に顔を上げた。
魔力探知に敏感な神経が、不穏な気配を察知する。そう、これは―――。
「サーヴァント!」
私は飛び跳ね、駆ける。すでにこの家の結界を突破されている。考えている暇はない。回復したばかりの体に鞭をうち、走る。
ピンポーンなんて、間の抜けたチャイムの音が家の内部に響き、私はいよいよ緊張する。扉の外に敵がいるのだ、緊迫しないほうがおかしい。
少しだけ、荒れた息を整え、玄関の扉を開く。
そこには。
白く、穢れない聖女がいた。
赤い瞳がまっすぐに私を見据えた。鋭くも優しくもない。ただまっすぐで、純粋な視線。
その視線を受け、ようやく現実に戻る。
聖女に見えたアインツベルンのホメムンクルスと、その隣にいるのはサーヴァント。
黒いスーツを着こなした長身でがっちりとした男。髪は青いような黒髪。その2人を交互に見ながら、私は名乗り出る。
「アインツベルンのホムンクルス。………初にお目にかかります。私は御三家遠坂の現代当主、華と申します」
失礼のないように、接する。目の前の聖女はそうするに値する気品を持ち合わせていた。
銀髪に赤い瞳、それは聖杯の器である証。
それに、あくまで彼女は玄関から訪れた。
奇襲でないのなら、最低限の礼は尽くすべきだろう、と。
私は敵であるマスターを我が家に招きいれた。
*****
「ふむ、遠坂のものはきちんと礼を尽くせるのだな。人の世は腐っていると、嘆いていたわが身としては喜ばしいことだ」
招き入れた客―――――、アインツベルンのマスターはランサーのマスターだと自分から名乗った。今回アインツベルンが2つのマスターを準備したことは知っていたが、その1つは私が倒した。
一瞬は復讐か、敵討ちかと危機を覚えたが、そうでもないらしい。
『先日は家のものが無礼を。申し訳ありませんでした』
と、あのアインツベルンが頭を下げたのだから、卒倒寸前だ。
1000年の歴史を持つ名家なのに、頭を下げるとは思ってもいなかった。
「いえ、仮にも玄関から訪れたものを拒否するのは家人としては最低の行いですから。紅茶ぐらいしか出せませんが………、ご用件は何でしょうか」
何故か霊体化しているランサーと、のほほんと紅茶を飲んでいるアインツベルンに問いかける。
というか、いまだに名を聞いていないのだけど………。
「おい、ナリア」
「ん、ああ、そうね。自己紹介が遅れたわ。私はナリアスフィール・フォン・アインツベルンよ。長いからナリアでいいわ」
そうして、また紅茶を一口啜るナリア。
私はとりあえず正面に座って、セイバーに目配せする。
私の隣でじっと2人を見つめている(睨んでいる)セイバーは、相変わらず警戒態勢を解いていない、少しばかりぴりぴりした空気のほとんどがセイバーの殺気のせいだろう。
それを見かねたのか、ランサーが渋い顔で口を開こうとして、
「おい、すこしは――――」
「何用だ、ランサー。ここは敵陣だろう。武装もせずに、紅茶を飲むなど気でもふれたか」
わーい、セイバーったら火に油注いじゃったよ。
………。
いや、私も少しおかしくなっているかもしれない。少しの間だけ現実逃避してしまった。
「セイバー」
このままでは、家の中で激しい戦いが始まるかもしれない。それだけは勘弁だ。
立ち上がりランサーを見下ろしているセイバーを手で制する。セイバーは少し不服そうだったが、文句を呟きながらも従ってくれた。
「で、何用です?セイバーの言うとおり、ここは貴方達がいていい場所ではないはず。城に戻ったほうが得 策かと。………もっとも、ただ紅茶を飲みに来ただけではないとは思いますが」
「………用件、ね」
ナリアは少しだけ間を空けると、目頭を押さえた。
何か考えているようだ。
「城に帰りたいのは山々だわ。だけど、城は先日あなた方が焼き払ったでしょう?おかげで住む場所がないのよ。………だからって、一人のマスターが野宿なんてできるほど、今の冬木は安全じゃないでしょう?ランサーも片腕を失っているし」
私は視線をランサーに向ける、と確かに気付かなかったが片腕がなくなっているようだ。
それにしても、確かに今の冬木で一人のマスターが野宿などしたら、そこらへんをうろうろしているサーヴァントに木っ端微塵にやられるだろう。
しかし、それが私のせいだというなら、確かにそのとおりだと頷くしかできないな。
「それはすみませんでしたね」
ため息をつきながら、何故か謝ってしまった。
(聖杯戦争で家を壊したからって敵マスターに頭を下げるなんて)
少しばかり、いや度を越した人のよさだろう。
まぁ、戦いを始めても今の私ではたぶん負けるだろう。
なにせ、魔力がない。
体はどうにか回復してくれたが、魔力がなければ戦いに参加できないし、自分の身さえ守れないのだから、仕方がない。
「で、私に何をすればよいと?」
「いえ、ただ協定を結びたいだけよ」
…。
……。
………。
はい?
「だから、貴方は聖杯を破壊するのが目的なのでしょう?だったら聖杯の器である私を傍で見張っているほうが的確に処理できるのではなくて?」
理解するのに2分ぐらい掛かって、ようやくこの女が言っている意味を理解する。
「ちょっと待って、それは確かに楽だけど。正気?」
だって、聖杯はアインツベルンにとって悲願だ。千年の歴史の中、ようやく見つけた希望ではないのか。それを破壊するといっている私と協力する、ですって?
ありえない。
思わず、目の前の人物の正気を疑った。
「失礼ね。私は正気よ、アインツベルンだってもう聖杯が正常じゃなくなっているって気付いているわ。いや、既に第三次聖杯戦争で気付いていたのよ。だって聖杯を汚染させたのはアインツベルンが呼んだ規格外のサーヴァントなのだから。………だけど、少し様子を見ることにしたのよ。淡い希望を抱きながら、ね。だけど、教会が動き出したんだもの。もう間違いない、そうでしょう?」
確かに、私が今回任務で訪れたのは、監督役としてでもあるが、それとは別にもうひとつ重要な任務が命じられている。
それは、異端である聖杯を破壊すること。
奇跡に達するであろう聖杯は既に汚染、世界を破壊するに足るただの兵器に成り下がったため、それが 発動する前に早々に破壊すること。
これが、教会から埋葬機関に下った命令。そこで、その地を実質管理する遠坂の私が冬木に訪れたのは、そういうわけだ。
冬木市の聖杯のことをたぶんあそこで一番理解している私だからこそ、破壊を命じられたのだ。