Gate lain

*****
炎は他に燃え移ることなく、五角形に炎上する。
それは綺麗な火柱だった。
ここまで密度の高い炎、いかにサーヴァントであろうと無傷ではすまない。
術から出てくるまでに必ず深い傷を負っているはず。
「きっちり反省しなさい。私を裏切ろうとした罰なんだから」
魔力の低下で足腰が立たない。ペタリと座り込んだままで、キャスターを包んでいる火柱を見上げた。
火はいまだ燃え続け、轟々と音を立てている。
結界のおかげで炎と、その余波つまり熱さは漏れて来ない。密封された結界内では外からの干渉は出来ても、内からの干渉は絶対的に―――――――。
「って、それもしかしてやばいんじゃない?」
この結界はそもそも異端者を封じるもの。大気(マナ)を流し込むのは後からつけた付属魔術でしかない。
だから、内からの干渉は―――――出来ない、というわけは……。
アレ、もしかしてキャスター。出たいけど出れない状況……?
「あーーーーーーー!もう。なんで、重要なときに”いざというときに失敗する”血筋が出るかな!」
私は立たない足腰に力を入れて、踏ん張る。
どうにか立てた。
とにかく、術式を解除しなくちゃ……。
「危ない!!」
と、私の後ろから声がする。
何が危ないのか。
とりあえず振り向こうと、体を捻ったとき私は横から何かに激突された。
凄い突撃。咄嗟に両手で頭を庇ったが、庇わなかったら潰れていたところだ。
しかし、なんだというのか……――――。
一体誰が、と微かに目を開く。
すると、そこには長い紫の髪をした、黒い女がいた。
黒い女は私の術式である黒鍵を抜く。
その光景を最期に。私は地面と壁に激突して意識を失った。
*****
葉が目を覚ます。
私が道場に飛び込んだとき、既に意識は戻っていたが、はっきりとした意識ではなかった。
しかし、それからしばらくして葉ははっきりと目を開けた。
そのことに、私は安心する。
目を開けた途端、顔色が戻り呼吸も確かなものになったから。
これなら大丈夫だと、そう思ったのだ。
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫。少し関節が痛むけど」
手足をぐるぐる回しながら立ち上がる葉は、体中の痛々しい傷跡が無ければ、怪我人だとは思えない。
「多少の痛みは我慢だ。サーヴァントとやりあったんだ。それぐらい我慢しろ」
……いや、それぐらいで済んだ事自体、奇跡に近い。
我がマスターはなんというか、奇跡を手繰り寄せることがうまいようだ。
「うん、そうか、そうだね。じゃあ、私が気絶してからどうなった?」
マスターはまず、状況確認を求めた。
マスターとして、一人前の姿。私はそれに満足して、今の状況を伝える。
「まず、俺を襲ったのはアーチャーじゃない。アーチャーっていうのはお前が戦った大男の クラスなんだが、そいつによれば、あいつらは葉の放った膨大な魔力に寄せられてきたらしい。だから、実質俺を襲うことなんて出来ない」
「はあ?でも、アサシンに刺さっていたのは矢だったわよ?武器的にアーチャーじゃない」
「まぁ、確かにその考えではそういうことになるな。だが、俺が見たのは赤い服をした男だった。つまり」
そこまで説明して、葉は理解したらしい。
「まさか姉さんのサーヴァント?」
「そうだ」
そこまで知って、葉は立ち上がる。その顔は怒りで満ちているようだ。
「わざわざ私を倒しにここまで来たというのね。姉さんは。そこまで憎いって言うなら決着をつけてやる」
どうやら、葉は多大な勘違いをしているようなので、私は葉を止める。
そのままだと本当に姉妹同士の戦いが幕を開けそうだ。
「ちょっと離しなさい!私は決着をつけるの!」
「早まるな!俺たちがここまで来れたのは、お前の姉のおかげだぞ」
その言葉に。
「なん、ですって?」
怯えた表情を浮かべて葉は立ち止まった。
*****
「お前の姉さんが、キャスターの攻撃を令呪で無効にしてくれたんだ。あれがなくちゃ、今頃おまえ灰になっていたぞ」
姉さんが私を守った?
だってあんなに憎んでいるのに。
あんなに憎んでいるはずなのに。
どうして、私を庇う必要があるの?姉さんに。
「お前が思っているほど、あっちもお前が憎いわけではないというわけだ。人は分かりあわなければ意味は無い。分かり合おうとしなければ、その距離は広がるだけだ」
(アサシン………)
その言葉はまるで自分自身がそうであったみたいな、真実味を帯びていた。
アサシンの過去を見た私には分かる。それは私と自分自身に当てられた言葉だ。
分かり合おうとしなかった、その結果であるアサシン。
そして、私も姉さんを分かろうとしていない。
一度、経験しているからこその忠告なのか……、アサシンは何かに悔いるような―――。
「やっぱり、後悔しているのね」
自身の過去に、取り戻せない幸せな日々。
そのために、アサシンは聖杯戦争に身を投じている。
「後悔、か――――」
言葉を通わせなくても分かる、サーヴァントとマスターは通じ合っている。
そんなことを聞いたことがあるが、それは正しい。
私も、アサシンも分かっているのだ。言葉を通じ合わせなくても、充分に。
アサシンは後悔している。
恐れて踏み出さなかった一線に。
保身を優先して、受身になっていた、そんな過去に。
やり直すことが可能なら。
アサシンは望むのだろう。
「できるなら、あいつとの幸せな日々を取り戻したい。復讐なんてどうでも良かったんだ、俺は。愛している、それだけで満ち足りていたのだから」
私は予想した言葉に、にっこりと微笑みかける。
「そっか、じゃあ」
座って、こちらを見上げるアサシンに手を差し伸べて、
「じゃあ、前に進みましょう。聖杯を手に入れるのでしょう?」
アサシンはしばらく私の手を見つめていたが、すぐに苦笑して
「ああ、お前はそういう奴だったな」
手につかまって、私は立ち上がるのを手伝う。
すれ違いは、かみ合った途端誰にも負けない絆となる。
絆はちぎれる事なき強力なもの。
改めて確認しあったお互いのココロ、目的に、共に走るパートナー。
それを得て、私も自分の目的を新たにする。
諦めかけていた一つの夢。
「正義の味方を、継ぐ」
おじいちゃんの夢を、そして挫折して挫けた姉さんの夢を、私は進む!
ある決心が胸に刻まれた。
*****
しん、と静まった教会で、一人少女はイエスに祈る。
「ふふ、戦いは始まりました。さぁ、行きなさい。バーサーカー誰もが絶望し、死別する戦いに。………愚かゆえに美しい争い。主よ私が望む絶望をここに」
少女は微笑みながら、その幼い顔に歪んだ悦びを称えて。
*****
道場から出ると校庭に大きな火柱が立っていた。
決して燃え移ることが無い、その美しい火柱を手繰るのは――――。
法衣の姿をしたシスター、教会の代行者が炎の前で立ち尽くしていた。
長い髪が乱れ、舞う。
ここからでも感じる魔力の迸り。
その熱さと量に立ち竦む事しか、私には許されていないように、身動きが出来なかった。
「姉さんの魔術。――――凄い」
魔力の抑制、応用から発展、構成、その全てが一流の魔術師に並ぶ。
暴走を抑えることで、精一杯な私とは全然違う。
やっぱり、遠坂を継ぐべきなのは姉さんだ。
――――どうして、姉さんは家を出て行ったのか?
「俺には分かる。葉の姉さんが家を出て行った理由。――――お前はまだ気付いてないんだな」
「気付いていないって」
それは、答えはすぐ近くにあるということだろうか?
分からない。何故、姉さんが出て行ったかなんて。
「知ろうとしなければ、分からないさ。まぁ、一度話し合ってみればいいさ。姉とな」
「はぁ」
100%殴られると思うんだが。
「分かったわよ」
まぁ、確かに何がいけなかったのか、聞いてみないと分からない。
アサシンを一瞥した後、目線を戻すと丁度姉さんが立ち上がったところだ。
「……姉さん?」
肩が微かに震えている。
荒い息をついているようだ。
「まさか、無理しているんじゃ……―――――!危ない!!!」
姉さんが立ち上がった瞬間、姉さんに向かう黒い影。
すごいスピードだ。
それが姉さんに向かっていく。
そして、ぶつかる直前。私と姉さんは目が合った。
「姉さん!!」
だけど、それも一瞬のこと。姉さんは黒い影に突き飛ばされ、吹っ飛んでいく。
そのまま放物線を描いて、地面に追突し、壁に激突した。
「アサシン!そっち宜しく。私は姉さんの手当てをする!」
「ああ、分かった」
即座に判断して、あの黒い人影の足止めを頼む。
アサシンも、すぐに反応して黒い影に走っていく。その後姿を確認して私も姉さんの方に向かう。
「酷い……」
校門に激突した姉さんの傷は、酷いものだった。
頭からは大量に血が出血しており、額を伝って地面にこぼれている。
外傷は治癒魔術で治るとして、内臓の破損を治すのはかなりの手間がかかってしまう。
もちろん、魔力の消費だって凄まじい。
でも、そんなことよりも一番危険なのは、背骨が折れてしまっているかもしれないということだ。
だいたい、姉さんの体を、構成を図る魔術で見てみたが、背骨に罅が入ってしまっている。
いくら一流の魔術師とて怪我すれば痛いし、治るのだって人並みだ。
魔術を使えば回復は早いが、傷というのは残り続ける。
しかも、それが全ての神経を束ねる背骨――――脊椎だと、尚大変な自体だ。
麻痺してしまえば、それまでなのだ。
神経の治癒は出来ない。
だからこそ、麻痺する前の治癒が大切だった。
「……っ、どうすればいいのッ!?」
ここでは治癒できない。
治癒に相応しい場所、大気(マナ)が満ち足りていて、姉さんの傷を癒すのに一番相応しい場所。そして設備――――。
「遠坂の屋敷……!」
あそこなら設備だって整っているし、姉さんを癒すところでは充分だろう。
霊脈も優れているし。
「葉」
ふと、近くから声がした。
それは、日頃からも良く聞く声――――。
「間桐蓮―――!!なんのつもりよ」
さっき撃合っていた男―――アーチャーを引き連れて、間桐蓮は私の後ろに立っていた。
「協力したい」
アーチャーが蓮の変わりに言葉を紡いだ。
―――それにしても、協力って。
「そんなの信じられるわけ無いじゃない。いくらアサシンを襲った相手があんたらじゃない としても、敵に変わりは無いわ」
私は両者をそれぞれ睨み、姉さんを背負う。
「おい、無茶するな」
蓮が私に手を伸ばす。しかし、私はそれを払い除け、立ち上がる。
「っ―――」
ギシリと体が痛んだ。
関節の痛みが最高潮に達しているらしい。
「だから、無茶するなって言っているだろう。アーチャー」
「はっ」
蓮の言葉で私が背負った姉さんが、腕に抱かれた。随分と忠誠心が高いサーヴァントだ。
軽々と姫様抱っこをして、私を見つめる厳つい瞳に――――私はひるむ。
「アサシンのマスターよ。そなたがそんな状態になったのも私の責任だ。手伝わせて頂きたい。安心しろ、手は加えない。こんな戦いの形を私は望まない」
「は、はあ」
圧力に負け、認めてしまう。
しかしアーチャーもそう言っているし、頼むのもいいだろう。
「じゃあ、一時的な休戦を了承する。アーチャー、遠坂の家は分かるかしら?」
「………――――分かる」
何故分かるのだろう?
……まぁ、いい。
「じゃあ、そこにいて頂戴。すぐ追いつくわ」
命令を出すと、アーチャーは凄いスピードで走り去っていた。
「すぐ追いつくって、どうするんだ?」
しばらくぼうとしていると、蓮が尋ねてきたので、はじめる。
地面に手をつけ、魔術を構成―――。
召喚
「summons」
それだけ呟くと、数歩離れる。
しばらく魔力が渦巻いた後、その場にバイクが現れた。
「―――なんで、バイクが?」
「召喚したの。……まぁ、召喚というより一時的に借りるだけだけど。空間転移の発展よ。他の場所から持ってきたの。使い終われば元の場所に戻るわ、……早く乗って」
私はバイクに跨り、蓮も後部座席に跨る。
鍵の部分は構成魔術で把握したデーターを投影で映し出す。
すると、鍵が作られた。
その鍵を差込み、エンジンを起動させ発進する。
「―――っ、お前、バイクの免許持っていたんだな―――。始めて知ったよ」
「当たり前じゃない。――――んなもんもっていないわよ」
「はぁっ!?うぉっ――――お、降ろせ―――――!!」
耳元にうるさく響く声を止めるために速度を一気に上げて滑走して、私は遠坂邸を目指した。
*****
昨日の今日で、魔力の消費が激しく1日寝ていた私が唐突に目覚めたのは、家の外にサーヴァントの気配を感じたから。
キャスターと華は教会の方へ行っている。しかし、帰るという連絡はもらっていない。
だとしたら、この気配は何者か。キャスターでも華でもない、気配。
「他のサーヴァントによる奇襲か……―――――」
すぐさま武装して、玄関の方へ急ぐ。
鎧の音が些かうるさいが、些末な問題だ。
「何者だ!!!」
ドアを勢い良く開け放つ。すると、そこには大きな体格をして厳つい顔をした男と、華が―――。
「華!?」
私は驚愕する。なぜなら、華が死んだように見えたからだ。
実際、息はか弱く肌は青白くなっている大よそ血の気が感じられない。荒い息さえなければ死んだと錯覚してもおかしくない状態。
一体、彼女に何があったというのか?
私はそんな華を抱える男を睨む。
「貴様、華に何をした。答えろ!!」
剣を握り、男を睨みながら構える。返答次第では生きて返すつもりは無い。無論、無傷で返すつもりも無いが。
「落ち着け、セイバー」
「………――――む。どうして私のクラスを知っている」
剣は風王結界で隠している。というか風の鞘に収めているだけなのだが。
得物は見えないはず――――――、だとしたら、どうして初見であるこのサーヴァントは私のクラスを知っているのか。
それが分からぬ以上、容易に近付くのは危険だ。
「私を忘れたか、セイバー」
「なに?」
そのいいようだと、私とこの男は一度顔を合わせていると言うのか?
分からない。どういうことなのだろうか?
この男の風貌に私は見覚えが無い。
「まぁ、どうでもいい。それより、どうして満身創痍の華をお前が抱えている。返答せよ。答え次第ではただではすまないぞ」
剣を改めて構える。
「っ――――」
「おーーーーーろーーーーーせーーーーーー!!」
何か言いかけた男の言葉をかき消すように、大絶叫。そしてとてつもないエンジン音がこっちに近付いてきた。
何事かと門を飛び出てみると、丁度バイクが突っ込んでくるところで私は咄嗟に避ける。
(あ、危なかった)
それにしても、と思う。
凄いスピードで走ってきたバイクは門から数メートル過ぎたところで、同じく凄いブレーキ音を響かせて停止した。
「一体何者―――――葉?」
バイクから降りて、こちらに歩いてきた二人の人影のうち、一つには見覚えがあった。
衛宮葉。元遠坂の跡継ぎで、今は衛宮を継ぐ華の実の妹だ。
その葉がどうしてこんなところに。彼女は遠坂を離反した身。今では衛宮として聖杯戦争に参加していると聞いていたが……――――ここはいわば敵の陣地。命知らずにも程がある。
「何のつもりです。葉、ここは華の陣地。それに乗り込むと言うことは例え姉妹でもどうなるのか理解してのことですか?」
「ええ、重々理解しているわ。その上で道を開けなさいと言っているのよ。セイバー。私は姉さんの傷を治癒しに来ただけだから」
「―――――」
少しの間考える。
どうして華が満身創痍なのか。どうして葉が華を連れて来たのか、あと見知らぬ二人の男は何者なのか?
知らないことが多すぎた。
「………―――――いいでしょう。ですが、傷の手当は別の人に頼みます。その間どうしてこんな状況になったのか、説明してもらえますね?そのことが家に入れる条件です」
*****
状況説明をして欲しい、とセイバーに頼まれ姉さんを地下の工房に横たえた後、リビングに戻るとセイバーが電話で誰かを呼んでいた。
なんでも、今回の監督役が姉さんの助手で、その助手が今から来るらしい。
何の為に、は姉さんの傷を治癒する為に、に他ならない。
とにかくアーチャーと蓮は別の部屋で待機させている。
「つまり、私のサーヴァントはキャスターに奇襲されたわけ。まぁ、そこで私が誤解してさっきの男、アーチャーを狙撃してしまったと言うわけ。私はここで気絶するんだけど。アサシンの言うには途中でその間違いに気付いて、直後キャスターが現れて狙撃したらしいの、私をね。だけど、狙撃の際放たれた矢は途中で砕けたらしいわ。なんでも令呪を強制開放したらしいとか何とか。つまり姉さんは私を庇ったわけ。………そこからは、私に
も分からないんだけど。目覚めてから、すぐに校庭の方に行ったら大きな火柱が立ち上がってて。そして、しばらくしたらいきなり黒い影が姉さんに突っ込んで、それであそこまで」
セイバーはテーブルを挟んで私の向かいに座っている。
私も久しい遠坂のリビングでソファに座っているのだが、落ち着かなかった。
セイバーはと言うと、ふむ、と呻って考え込んでいるようだ。
「つまり、何がどうなったのかは華が目を覚まさなければ分からないと?そういうことですか」
「ええ、察しが良くて助かるわ」
ただ、一つだけ確かなのは姉さんに突撃した黒い影は、敵だと言うことだけ。
………―――姉さんは私を庇った。だったら、今度は私が姉さんを助ける番。
「今、アサシンがその影と戦っているもしくは、追っています。何か分かったら教えましょう」
私はそうセイバーに伝えて立ち上がる。
「それは感謝します」
セイバーも初めて私に微笑みかけてくれた。
どうやら、敵マスターとしての警戒は解けたようだ。
「さて」
とにかく、姉さんは無事のようだし私は去るとしよう。
「帰るのですか?」
「………――――うん、いても仕方が無いしそれに、目覚めたとき私がいたら多分姉さん怒るからね」
それだけ答えると、私は遠坂の家から出る。見送りにセイバーが玄関まで来てくれた。
ありがたい礼節に私は感謝を述べる、と。セイバーはなにやら曇った表情を浮かべている。
何か言いたげな………――――。
「……華は本当に貴女を憎んでいるわけではない。ただ、ほんの少しのすれ違いなんです。すれ違いが、全てを狂わしている。分かり合えば、とても仲のよう姉妹になれると私は思っています。だから―――」
(成程、ね)
セイバーはたぶん私に帰ってきて欲しいのだろう。
聖杯戦争まで音信不通だった姉さん。そして、冬木に帰ってきて、いきなり不仲になった私たち姉妹。遠坂を今までずっと見てきたセイバーには耐えられなかったのだろう。
同じ姉妹同士で殺しあうなんて。
でも、ね。セイバー。
私たちはきっと後戻りできないのよ。
本当に憎んでいないのは分かっている。たぶん、姉さんが怒っている理由は私だって理解しているから。
だからこそ、私だって後ろには戻れない。この名を継いだ使命が私にはあるのだから。
「じゃあね、セイバー」
しかし、何も言わず残さずに遠坂の家を出る。
既に日は暮れ、暗闇が冬木市を支配していた。
*****
「………――――」
「………――――」
無言でアサシンと見つめあう。
いや、私の場合睨んでいるし、アサシンは眼を背けているから、見つめ合ってはいないのだが。
どうしてこんな風になったのか、と思い返せば長くなる。
私が遠坂邸から出て、家に着いた頃には既に8時を回っていた。
それから、軽めの夕食を準備している最中にアサシンが帰ってきたのだ。
随分と遅い帰還に、私は少し心配になっていたが、次の一言で慈愛の思いも掻き消えてしまったが。
「逃がした」
逃がした……それは勿論あの黒い影のことであり、おまけにクラスも分からずじまいだという。
最悪の展開。私が最も危惧していた自体だった。
あそこまで姉さんがやられたと言うのに、クラスも真名もマスターも、分からないなんて。
信じられなかった。
「だから、悪かったって。こっちだって最善を尽くしたんだ。だけど、あいつ逃げ足が速くて。………そうそう、一つだけ。あいつキャスターを助けたぞ」
言い訳は聞きたくなかったが、無視できない言葉が続いたので反応してやる。
「キャスターを助けた?どうして」
「さぁ、マスターに命じられたんだろう」