六章/殺人鬼

 

*****

女は微笑む。

「貴方が望むものは何ですか?」

 

私は答える

「1つの残酷で哀しい復讐を」

女は答える。

「ならば、願いなさい」

 

――――聖杯を、望めば、全て、手に入る。

 

*****

 

全身の穴という穴に針を刺されているような刺激的な痛み。

私は意識を取り戻し、小1時間。ずっとその痛みを味わっていた。

 

自然と息が荒くなって、低いうめき声を出す。

 

しかし、人が居る気配はしなかった。

だらしなく涎をたらしながら、必死に立ち上がろうとする私。

 

とにかく、少しでも痛みを和らげる為に、動く。

動けば、痛みに集中しないで済む。なにかしていた方が、その痛みから目を背けることが出来る。

私はどうにか、起き上がることが出来た。

 

「一体……ここは?」

痛みはまだ完全に消えていなかったが、朧な意識と視界を繋ぎとめ正常に活動させるようにはなっている。

どうやら、私はどこかのベッドに横たえられていたらしい。

見た限り、とても清楚な作りで、どこか神聖さを感じる。

もしかしたら、教会に保護されたのか?

 

そう思ったとき、脳裏に姉の顔が浮かぶ。

 

「っぅぁ」

身体が疼いた、身体の奥底から煮えたぎる負の感情が身体を突き破ってきそうだ!

それは疑問。

思い起こせば、何が悪かったのか、何がいけなかったのか分からなかった。

何故、自分は姉に嫌われているのか―――。

「教えてあげましょうか?」

ふと、何処からかそんな問いがかけられた。

その声は聴いたことがない。明らかに初対面の人だろう。しかし、いまその人物はなんといった?

 

暗闇に目を細める。

薄っすらと人型のシルエットが、扉の向う、暗闇の中に存在していた。

「誰、ですか?」

「私は教会の代行者です」

そんなことは――――、いや分からないが。

それよりもこの人物は一体―――?

 

「失礼、私の名はアリス。アリス・アルワインです。今回の聖杯戦争の監督役として冬木に派遣されました。貴方のお姉さんは私の上司でして、本当は華さん一人で来るはずだったんですが―――――」

 

女は暗闇から光の下へ、身を乗り出し、全身が明らかになった。

シスター服を着こなし(法衣)明るい茶髪をまっすぐと毛並みをそろえ、瞳は蒼い。昔、魔術書で見たが、代行者や教会の人間神に近いものは眼が蒼いと言う。

――――確か淨眼だったか。

 

そしてアリスと名乗った女性は自分の身の上をスラスラとすべるように説明する。

 

見た目は私と変わらないぐらいの、女性というよりも少女といった方が正しい。名前からいって、アリスは多分外国人だろう。

それにしてはやけに日本語がうまい。

しかし、少女といってもさすがは代行者。

動きが精錬されていて、無駄がないとでも言おうか……――――。

 

もっとも、アサシンには及ばないが。

 

……そこまで考えて、はた、と気付く。

私はどうしてここにいるのか。

たしか、教会は聖杯戦争に負けたマスターが、保護を求めるところ。

 

ここにいるということは、すなわち、参加資格を失った、サーヴァントを失った魔術師だけ――――。

 

私はもしかして、聖杯戦争に負けたのか?

 

なら、アサシンは―――――。

「アサシン!!」

気付いたら、身体が勝手に動いていた。

私はベッドから降りて、駆け出す。全身に痛みが走ったが、そんなこと今はどうでも良かった。

神聖な空間を抜け出して、渡り廊下を全速力で駆けて、礼拝堂へ繋がる扉を体当たりで飛び込む。私は勢いのまま倒れこんでしまった。

 

「っっっ〜〜」

 

壮絶―――、想像を絶する痛みが私を襲う。

が、

私は安らかな気持ちだった。

 

飛び込んだ礼拝堂の中心で、アサシンがステンドガラスからもれる綺麗な光を浴びて、目を細めているところを見たから。

つまり、アサシンは無事だった。

立っている。

生きている。

それだけで、私の痛みは消えてしまった。

 

「おいおい、大丈夫か?」

 

だけど。

反応が少し鈍っていたのか。私に気付いたのはしばらくたってから。

理由は、簡単だ。

「アサシン、貴方――――」

「ああ、これか」

 

――――アサシンの、右目が、無かった。

 

眼帯をつけているアサシンは、片目がないせいで、反応が少し鈍くなっているようだ。

右目を覆いつくす、眼帯。

それは、アサシンの右目が既に機能していないこと。機能をやめたことを意味していた。

なんて、痛々しい傷痕。

 

「ランサーの槍にやられた。本当なら魔術やら、何やらで治すんだが―――、あの槍のせいなのか……生憎、治らなかった」

乾いた笑いを礼拝堂に響かせるアサシン。

私は何もいえなかった。

 

「大丈夫だよ。目なんて無くても、俺は気配だけで殺し合いは可能だ。もっとも、この眼は少し異常で、眼がないと少し困るんだが――――」

 

知っている。

昔見た魔術書にあった。

バロールの魔眼……その亜種が存在し、それはモノの死期が視え、点や線という情報によって視ることが出来るという、黄金クラスの魔眼。

珍しい―――どころの話ではない。

存在すら怪しい、架空といわれ続けた。まさに絵本の中の力だったのだ。その魔眼は。

名を―――直死の魔眼という。

 

だとしたら、アサシンにとってその眼こそ――宝具なのだろう。

それを片方、昨日失ったというのか?

 

「なにが、少し異常、よ。充分異常だわ」

「ええ、異端ですね。その眼は。サーヴァントが持つには少しばかり厄介です」

誰にも聞こえないようにいった言葉は、第3者に返答された。

 

その声は、アリス。

アリス・アルワインはいつの間にか、礼拝堂に入ってきていた。

 

「――――っ」

私は思わず身構える。

なぜなら、アリスは明らかに敵意を出していたからだ。

しかし、バランスが取れないままアサシンに支えてもらう格好となってしまった。

こんなときに、身体が自由に動かせないとは、明らかに危険だ。

 

「無理をしすぎですよ」

だが、アリスは襲ってこなかった、反対に私を心配しているように近付いてくる。

私はアサシンに心の中で

(消えなさい)

と、命じ姿を霊体に変えさせた。

 

「マスターとして迅速な判断。さすがは先輩の妹さん」

関心したように口にすると、懐から草を取り出した。

「安心してください、痛み止めです。というか、これを飲むと今の痛みは取れますから。そうしたらここから出て行ってもいいですよ」

 

どうやら、薬草らしい。

私はなされるがままにそれを口にした。

 

少々苦いそれは、私の喉から胃に行き、消化される。

 

口に残る苦さが消えたとき、痛みが引き潮のように引いていった。

「凄い……」

思うように動くようになった身体を実際に体感しながら、素直に感嘆の声を上げる私。

それほど、その薬草は凄かった。マジックアイテムと呼んでも変わりが無い。

 

「では、気をつけてくださいね?今回は私の独断で貴方を助けましたが、今度はそうも行きません。先輩がそばにいるときは、貴方を助ければ私は先輩に殺されますから」

 

あっけらかんと笑うアリスに私は純粋に、いい人だ、と思った。

 

私は渡された制服に着替え、教会を後にする。

そばにはアサシン。

見えないが、居るという妙な安心感を抱きながら私は学校に行くことにした。

 

*****

 

学校とは、年若いマスターが潜伏するには丁度いい、都合がいい場所だ。

なぜなら、ここには人がたくさん居るし、魔術師も事を起こしにくい。

サーヴァントがそばに居るなら、ここほど安心できる場所は無かった。

 

「だからって、よくもまぁ……――――」

いけしゃあしゃあとマスターの前に出で来るものだ。

 

私は呆れながら、目の前に現れた男を一瞥した。

男は私が通う穂群原学園の制服を着こなし、髪は伸び放題。見るからにだらしが無い。

しかし、ルックスは人並み以上だ。興味ないが。

そんなことよりも学校に来たことを後悔してしまったではないか―――。

 

男の名前は間桐蓮。魔術師の一族、マキリの魔術師である。

つまり、こいつもマスターだ。

御三家を優先的にマスターとして選出する聖杯。

間桐、遠坂、アインツベルン―――つまり、間桐を名乗るこいつも完璧にマスターだ。

 

普通、マスターはその身がマスターだとばれないように、外出は控えるものだが、この男は常識が無いらしい。

 

「ねぇ、貴方馬鹿でしょう?」

私は思わず目の前の男―――蓮にそう口にしていた。

「馬鹿ってなんだよ?そもそも挨拶して、開口一番それか。俺が馬鹿って言いたいよ」

 

蓮は私の幼馴染で、子供の頃よく遊んでいたものだ。

それも、5年ぐらい前からぱったりと止まったが。

 

姉さんが居なくなったと同時に―――――――。

 

「アサシン」

「なんだ」

私はアサシンに呼びかけると、姿を現さずに、声だけで返答する。

「こいつ、マスターかしら?」

アサシンは、少しだけ気配を探るようなことをしてから、頷いた。

「間違いないな、近くにサーヴァントが居る。姿を消しているが、存在自体は消していないようだ。今からでもいけるが―――どうする」

 

どうする、どうしてやろうか?

 

いますぐ、この無防備な男に手を下してもいいが――――。

「今はやめましょう。人が居るし、なにより―――アホくさいわ」

私はそういうと、蓮の隣をすり抜けるように、すれ違う。

 

クラスは一緒なのだ、嫌でも顔を合わせてしまう。

しかし、今だけは癇に障るので、無視することにした。

 

*****

そして、一日を過ごし、身体の調子がいつもどおりになったのは、放課後になってからだった。

誰も居ない、夕暮れに染まる教室。

そこに居るのは、私とアサシンだけ。

 

「身体の調子は―――――」

「だいぶ、よくなったわ。麻痺も取れたし、いつもどおりよ」

「そうか」

 

アサシンは安心したように微笑むと、夕暮れの差し込む窓辺に立って空を見上げた。

窓からは校庭が覗いていて、下校中の生徒がまばらに歩いているのが分かる。

 

「―――」

 

すこし、息を呑む。

視線を上げて、校庭から空を見上げたその景色が、絶景だったからだ。

アサシンが見ほれるのも無理は無いか。

こんなに綺麗な夕暮れを見たのはいつ以来か?

もう、だいぶ空を見上げたことなんてなかったような気がする――――。

 

魔術師である私は足元を救われないように、注意して歩き続けていたから。

空なんて、だいぶ見上げたことは無かった。

 

「俺は――――、殺人鬼だ」

 

いきなり、私の隣でアサシンが呟いた。

その瞳は何を見ているのか……、ぼんやりと虚空を見上げている。

「アサシン?」

「……―――あぁ、ごめん。何だ?」

「いえ、なんか、哀しそうだったから」

アサシンは虚空を見ながら、なにやら思いに耽っているようだった。そして、その表情はどこか哀しそうで――――、声を掛けてしまった。

 

「哀しい――――か。はっ、哀しみなんて感じないさ。だって、俺は殺人鬼だから」

「殺人鬼だから……、感情が無いって言うの?」

私はアサシンの言葉に静かに憤激した。

人殺しだって人間だ。

それには変わりが無いはずだ。ただ、人とは少し違う力をもっただけじゃない。

なのに、それが異端なんて間違っている。

だから、感情が無いなんて間違っている。

 

「あぁ、俺はあの日感情を捨てた。忘れてきたんだ。全ての感情を捨てることで――――完璧な殺人鬼になることを選んだ。………復讐の為に」

「ふく……讐?」

「ああ、復讐―――。私を裏切った、一人の男に」

男言葉から女言葉に変わる。

私はそれに突っ込まず、アサシンの横顔を見続けた。

眼をそらせば消えてしまいそうで、だから私は見続けた。

 

「お前には教えとく。仮にも、俺のマスターだしな」

アサシンは皮肉を口にしたが、私は反論しない。

それにたいし、苦笑いを浮かべると、再び私のほうを向けていた視線を空に戻した。

 

「俺の真名は―――両儀式という。朽ち果てた殺人鬼だ。俺は昔……ある一人の男が好きだった。殺人鬼でも、あのころは人並みに生きていたと思う。だから、人並みに好きな奴とかもいたのさ――――、だけど」

 

そこで、アサシンの表情は曇る。

苦虫を噛み潰したような、辛そうな表情に―――私は、少しだけ緊張する。

たぶん、アサシンは自分が居た時代の、自分が英霊となった理由を話そうとしている。

――――そう、予感したから。

 

 

*****

 

それはそう、たぶん雨の降る日だったと思う。

 

冬の、雨にあたりながら。

財布を忘れたという鮮花からの電話で、橙子から届けてくれと頼まれた。

私は、どうしてそんなことをしなければならないのか、文句を言っていたが、仕方がなく私が折れた。

こうして、雨の中走ることになったのも、全部橙子のせい。

 

冷たい雫が頬を伝う。

 

クリスマスが近いというのに、町は妙な静寂に包まれていた。

雨のせいもあるだろうが、明らかに異常――――。

私は商店街にある電気店のショーウインドウに陳列されていたテレビのブラウン管を覗き込む。

 

そこでは、夕刻を告げるニュースが色々なテレビで流されていた。

 

まず、今日の出来事について、どんなニュースを伝えるか、ニュースキャスターが語り、その言葉と共にテロップが浮かび上がる。

色々な報道がニュースで伝える中、私はあるひとつの報道が目に付いた。

 

「再来した―――殺人鬼?」

 

それは、昨日も報じていたニュース。

しかし、昨日はたいして気にしていなかった。

人殺しなんて、よくあること。いちいち気にしているほど自分は暇ではなかったからだ。

 

私の目に留まったのは、別のことだ。

 

それは、ある……私に関わりのある単語―――――。

再来―――、という部分だった。

 

殺人は昨日から報道されていた。それより前の報道は一切無く、連続して起きているという話も無い。

 

ならば、再来とは―――いつからのことか?

 

そんなこと決まっている。

1年ほど前、丁度このくらいに起きた殺人事件。

 

猟奇的殺人事件、そして、私が幕を下ろした或るひとつの事件。再来とは、たぶん、そのことをいっているのだろう。

しかし、再来なんてありえない。

なぜなら、その事件の犯人は、――――私が殺したからだ。

 

実際に手を下した。

点を突き、完膚なきまでに殺しつくした。

だから―――――再来、という言葉は正しくない。

 

ふと、テレビ画面の示す時刻が待ち合わせの時間を軽く過ぎていることを私に教える。

私は視線をテレビからはずして、再び歩き始める。

本当は走ればよかったのだろうが、焦った所で既にぬれているのだ。大差ないだろう。

降りしきる、雨の冷たさ。

待ち合わせ場所。

そこで待つ、1つの黒い傘。

 

私は殺人鬼のことについて考えていた。

だから、すぐには理解できなかった。

 

それに、隠れるという隠密行動も忘れていた。

 

全て、分からなかった。

 

―――顔を上げれば、私が財布を持ってくるのを待っている鮮花。

しかし、それだけじゃなくて、その傍には幹也がいる。

幹也と鮮花はまるで初々しいカップルのように身体を寄せ合い、傘が生み出す雨しのぎの狭い空間を、2人で共有していた。

相合傘。それだけなら、私も許せた。

そもそも、私と幹也の関係は恋人ではない。恋人ではないけど、それに近いものだと思っていた。

だから、まだ許せた。

兄妹同士の相合傘なんて、良く見ることだ。

だけど、ここからは許せなかった。

――――兄妹同士で、接吻なんて。

 

私は思わず持っていた財布をその場に落としてしまう。

その音で、2人も気付いたのか私に視線を送る。

すると明らかに慌てたような表情をした。

 

それで、分かってしまう。2人は私にたいしやましいことをしていたんだと。

そして、それを理解して、したんだと言うことを。

 

私は目の前が真っ暗になったような気がした。

絶望―――、哀しすぎる現実に目を逸らしたくなった。

「あの、式―――」

鮮花は私に近付いてくる。

しかし、私はほとんど無意識のうちにその手を跳ね除けていた。

「触らないで!!」

思わず、元の口調に戻ってしまうが、そんなこと後の祭り。

私は鮮花を睨みつけ、拒絶を表すと、鮮花は竦み上がる。

幹也の私の見る目もそれで変わっていた。いつのまにか魔眼を開放していたみたいだ。

恐らく、それで私が鮮花を殺すでも思ったのか、幹也は私を睨みつけた。

 

そして、鮮花を庇うように俺の前に立ちはだかる。

 

その表情はまるで仇敵でも見るようで。

更に私を絶望させた。

幹也は私を拒絶していたから。

私は幹也に―――――――――。

 

 

――――――――――………捨てられた。

鮮花は幹也に守られ、私は幹也に敵視され。

 

そして、更に私を絶望させたのは、幹也の言葉だった。

「式―――もしかして、町の事件も君がやったのかい」

 

何かが、私の中で、音を立てて、崩れ去る。

 いつも私を信じてくれたこいつが。

 何の根拠もなしに、私を疑った。

ずっと、幹也だけは信じてくれると思っていたのに。

「それは、あんまりだよ。幹也。お前だけは私を判ってくれると思っていたのに」

 

「――――」

幹也が息を呑んだ。

何事か、考えて私は頬に伝う涙に気付く。

ああ、私は泣いているんだ。泣くほど、幹也が好きだったんだ。

でも――――、

「今更、気付いたところで。もう手遅れね」

自嘲する。

情けなくて、もうどうでも良かった。

 

「式――――」

「……―――どうした、幹也。さっきまでの眼はどうしたんだ?鮮花を俺から守るんだろう?」

ナイフを帯から取り出す。

雨にぬれる私、そして私は幹也を殺そうとする。

全てが、その再現。

雨の中での追いかけっこ。だけど、それは私にとってあいつを殺せないという安心でもあった。

私は幹也を殺せないから。

殺せないほど愛しているから。

その感情を私はずっと大切にしていたのに。それを――――。

幹也は崩した。

壊したのだ。

 

許せない。

殺してやる。

 

私を襲う、これまで無かった程強力な殺人衝動が私を襲う。

 

 

*****

 

「覚えているのは、ここまでだ。気付けば俺は一人っきりで道路に倒れていた。そして、そのまま俺は死んだんだよ。だから、俺が望むのは―――――ある男への復讐だ。あいつは私を見捨てたのだから」

 

アサシンは狂ったように笑った。

私は、それを呆然と見ていることしか出来なかった。

 

アサシンが言ったことは確かなのだろう。その人物を知らないが、アサシンにだって好きな人が居て、アサシンはその人物に裏切られたのだ。その憎しみの果てに自分が居ると、アサシンは自分を嘲笑する。

何かに諦めるようなしぐさに、私は反発感を抱いた。

「本当に、それが貴方の望みなの?」

「――――」

「だって、貴方。幸せそうだった。その男性とのこと話していた時、とても幸せそうに――――」

 

笑っていたじゃない。

そう、言おうとして、私は口を摘むんだ。

アサシンが放つ殺気が尋常なものではなかったから。

 

「お前に私の何が分かる」

「――――それは」

 

何が分かるのだろう?

私とアサシンはマスターとサーヴァント。それ以上もそれ以下も無い。

そう、私はアサシンのこと、何も知らない。

だから、私はアサシンの何が分かるのだろう―――――?

 

「たぶん、何も分からない。でも、アサシンはその男性が好きだったんでしょう。だったら、答えは簡単なのよ。――――アサシンみたいな、いい女ほっといて浮気するような奴。一発ぶん殴ればいい」

 

そう、何も分からない。

だけど、アサシンはその男性のことが好きで、アサシンは後悔しているのだろう。

「違う」

「違わない。貴方は後悔しているのよ。好きだって、伝えられなくて。そのまま逝ったことを悔いているのよ」

 

アサシンは歯軋りをする。

それは、肯定。

だけど認めたくないのだろう。

 

「だから、お前に俺の何が分かる!お前に……―――私の何が理解できるんだ……!」

遂に、癇癪を起こしたアサシンは私に詰め寄ってくる、それに対して私は落ち着いた声音で自然と呟いていた。

「それはたぶん、貴方を信じているからかな?それに復讐なんて、アサシンには似合わない」

「――――っ!?」

アサシンは眼を見開き、息を呑んだ。

信じられない、とでも言いたそうな――――そんな感じ。

そして、アサシンはうつむく。

 

「―――いずれ、分かるわ。私の本性。私は――――殺人鬼なのだから」

歯軋りして、その音が私の耳に届く。

私はアサシンの言葉に反論しようとしたところ。

 

「―――――っ!」

「――――」

 

巨大な魔力が出現した。

気配を隠さず、大量の魔力を放出し続ける何者か。居場所ははっきりと分かった。

―――屋上。

 

そこに敵は居る。

 

「アサシンッ!」

「―――ああ」

私の呼びかけで、アサシンは開いた窓から飛び出す。後姿しか見なかったが、恐らく階段よりも早く移動できると踏んだのだろう。

ならば、私は別ルートから気配の元へ行こう。

教室から、廊下に飛び出る。そしてダッシュ。

行き先は、屋上に通じる階段。

 

陸上の選手も顔負けのスピードで、駆け上がる。

 

私は鍵の掛かっている屋上の扉を蹴り上げて、無理やり開けた。

無茶な行動だが、おかげで扉の鍵は壊れ、開いてくれた。

 

「はぁっ、はぁっ、……んくっ。敵は何処よ」

私は今になって荒れる呼吸を飲み込み、周りを見渡すが、誰も居ない。

しかし、相変わらず気配はここでしている。

ということは、絶対ここに居るはずなのだ。

 

でも、どうして気配を垂れ流しにしているのに、姿を隠すのだろう?

今更のような気がする。

 

ん?そういえば、アサシンは何処だろう?

 

「アサシン……?」

 

嫌な予感がした。

心なしか、令呪の光も淡いものになっている。

 

まさか、アサシンがやられた?

 

そんなはずは無い、アサシンは神様相手にだって負けないほど――――。

強い、そう考えようとして私の前に何か落ちてきた。

ドサッ、と音を立てて上から落ちてきたものは――――アサシン。

 

血塗れで、失神したアサシンの姿だった。

その姿を私は凝視する。

 

私には信じられなかったからだ。

 

アサシンが負けるなんて私には信じられない。

 

だけど、アサシンは負けている。胸、胴、足。計5本の矢が突き刺さっていた。

これで即死じゃ無いだけましというか、とにかく、私は許せなかった。

 

「出てきなさいッッ!私が相手になってあげるわ!」

 

魔術回路に強大な魔力が一気に噴出する。

怒りで、魔術回路が壊れるのもかまわずに、フル回転させた。

  竜巻よ      風の息吹よ         我の意思に従え          風の  神よ!

tornado method n breath ego purpose  accompanycut caused by whirlwind!」

大魔術に近い、長い詠唱。形を成さなかった多大な魔力が、私を中心に渦巻き始める。

それがどんどん強力な竜巻となっていく。

風の神の加護を受けた私は、それを操るように屋上全域を範囲として魔力を展開した。