Gate lain

*****
私の寝室の窓ガラスから家に入る。
既に午前3時。靴音や、足音で起すのは忍びない。
法衣―――、シスター服のようなものを脱ぎパジャマに着替えていく。
着替えたところで、部屋のドアがノックされた。
私は少し驚きながらも、ノックした相手に呼びかける。
「誰?」
ノックした人物は安堵のため息をついて、部屋に入ってきた。
「帰ってきていたのですね」
よほど心配したのだろう、確かに今の時期、マスターの一人歩きは危険なものである。襲ってくださいって言っているようなものなのだから、セイバーが心配するのも無理はない。
しかし、そこは侮らないで欲しい。
伊達に今まで埋葬機関の代行者はやっていないのだから。多少の敵は蹴散らしてくれる。
強敵相手だって自分のサーヴァントが来るまで時間を稼ぐほどの器量は持っているつもりだ。
たぶん。
「くすくす」
セイバーが珍しく声に出して笑っている。
私は何か変なことを言っただろうか?
まぁ、それは別にいいとして。
「で、どうしたの?こんな時間まで起きているなんて。貴女らしくないわね。なにか嫌な夢でも見た?」
明らかに表情が曇った。
ビンゴらしい。
「嫌な夢――――でしょうか。私たちサーヴァントは夢を見ることはありません、が。あれは確かに最悪の悪夢でした」
華奢な身体が小刻みに震えている。
こんな、華奢な背に王としての責務なんてものを背負わせていたというのかと思うと少しむかついた。
しばらく沈黙が続き、セイバーは笑顔を作って
「なんでもありません。忘れました」
そう、言った。
が、どうみても大丈夫そうではない。無理をしているような笑顔を見せられて、このまま、はいそうですかと言えるほど私は出来ていない。
だからといって、無理にセイバーから聞きだすつもりもない。
言いたくないなら、聞かないほうがセイバーにとってありがたいはずだから。
だから。
「セイバー」
「はい、どうしました?」
ただ、そばに居てあげるだけでいい。
「今日、一緒に寝ない?」
怖い夢や、悲しい夢を見たとき、とつぜん人が愛おしくなる。
そばに居て欲しいと思う。
だから、私はセイバーのそばに居てあげよう。
「さぁ」
戸惑うセイバーの手を取って、寝台に横になる。
そして、布団の中に並んで横たわり、私もセイバーも天井と睨めっこした。
「華」
「何?」
セイバーが顔を合わせないまま私に問いかけてくる。
「どうしたの?」
中々言い出せないようなので、私が代わりに問いかける。
「私は―――」
意を決したように話し出したセイバー。
私はその横顔を見つめ整った美しい騎士王の姿を拝見する。
数百年もの時の流れで、失われない美貌と誇り。しかし、彼女だって人間恐れているものだってあるのだろう。
騎士王にだって、辛い過去があって。
それをやり直したいと願った事だってあったはずだ。
それでもセイバーは今を歩むため残ったとお婆ちゃんが言っていた。
いまでも、その気持ちは変わっていないんだろうか?
だって、それはあまりにも悲しいことだから。
そうだろう?時の流れで老いていく周りの人間と変わらぬ自分自身。
取り残されるような、錯覚と事実。
「私は、過去をやり直したい。果たせなかった責務を果たしたい。王としての責務を。私はみんなの笑顔が見たかった。ただそれだけの為に私は剣を執り続け、世の中を安定させるための国づくりだって一生懸命努力した。だけど、国は滅んだ。滅んだということは私が王としてふさわしくなかったから―――――。だから、私は聖杯に願った。剣の丘で、自身の息子を貫いた剣で自分を支えて」
悲しそうに言葉をつむぐセイバー。
確かに伝説ではアーサー王はカムランの戦いで自分の子供に反旗を翻され、死闘を繰り広げる。
そして、最後に生き残ったのはアーサー王。
息子を殺し、兵も皆死に、唯一残った騎士王。
人が倒れ、死臭漂う丘の上で―――セイバーは何を願ったのか。
「自分よりもふさわしい、王を見つける為に過去へ戻りたい。もう一度やり直したい、と」
私はセイバーに反論する。
そんなことは間違っていると。
「くす」
セイバーはこの陰鬱とは似合わない笑い声を出し、微笑んだ。
「いえ、似ていたもので。士郎に」
士郎―――、あのくそ男か。
自分の血縁者とは思いたくないが、しかし実際にこの血に流れている。
反吐が出てしまう。
誇り高い遠坂の血を穢した魔術使い。
「嫌いなのですか?」
セイバーは不思議そうに聞いてきた。私はムカムカとイラつき始める心を抑えて、努めて冷静に言い返したつもりだった
「私は祖母を尊敬しているから。祖父を尊敬―――というか、好いているのは」
――――が。
「―――――葉のほうよ」
自分でも声音が変わったのを感じ取った。
「―――たまに、思うのですが。どうして、そこまで毛嫌いするんです?なにか―――」
「何もない。いいから寝ましょう?私疲れてるの」
自分勝手に会話をつぶして、布団にもぐりこむ。
「逃げていては、何もかもが手遅れになりますよ。知ろうとしなければ答えは出ない」
セイバーの声がくぐもって聞こえたが、早口だったので聞き取れなかった。
暗い闇の中。話す言葉もつき、沈黙に包まれた部屋。
疲れが押し寄せ、波のように全身に浸透し、意識がシャットダウンしていく。
そして、私は眠気という甘い誘惑に飲み込まれていった。
*****
次の日の朝。
丘の上の教会。
監督役が住まうという教会にて、私は手伝いの子の報告を歩きながらきいていた。
「先輩、昨日の件ですがランサーは郊外の森に逃げていきました」
手伝いとしてつれてきたのは、後輩のアリス・アルワイン。錬金術を使う、元はアトラス院のものだったらしい。アトラスとはエジプトに鎮座する魔術協会 3大部門 “巨人の穴倉”と恐れら れている知識集団だ。詳しいことはあまり知らないが。
アルワインは、かの有名なエルトナムに続く名家だったらしいが、姉が継ぎ、自身は教会へパイプラインを作る為に売られたという。
可哀想な境遇を持つ子だ
「だとしたら、ランサーはアインツベルンのサーヴァントね」
「恐らくそうなるかと」
この子は私よりも少し後に教会に来て、私と共に行動することが多かった。
いわゆる相棒という奴だ。
相棒は色々優秀だったが、面倒だったのが魔術の知識が皆無というところ。
姉があとを継ぐことが確定していた為、15歳まで何も知らず一般人として暮らしていたが、まぁ何かがあって能力が開花、その能力が何かは知らないがそのせいで裏の世界にデビューというわけだ。
いま、アリスは私の元で一生懸命魔術を習っている。
「あの能力からすると、かなりの強敵になるわね。キャスター?」
「なんだ」
私の隣に現れたキャスターを見て
「きゃあっ」
教会の代行者としてありえない驚きを見せるアリス。
ここら辺も後でみっちり教育してやらなければなるまい。
「今夜、奇襲をかけるわ。セイバーにそう伝えなさい」
「承知した」
再び姿を消すキャスター。
「あ、あの先輩、アインツベルンには結界が張っていますけど。奇襲をかけるんですか?たぶん無理……、痛いっ、痛いですっっ!」
アリスの横腹をつねる。かなり、強く。
「そんなこと分かっているわよ。奇襲というのは、そういう意味じゃなくて、まぁ、今夜付いてきなさい。みせてあげるから」
私の策は、大胆な奇襲だ。
しかし、そうすればアインツベルンは外に出てくるしかないだろう。
そこを狙う。
各々の能力を踏まえた迅速な作戦。
「今回の聖杯は立派な異端………私たちは異端を処理する埋葬機関。いいわねアリス」
言い聞かせるように、アリスへ問いかける。
アリスは少しだけ息を呑む。
そしてから、元気な声で
「はいっ!」
返事をした。
そう、異端。あってはならない聖杯の紛い物。
そして、私は異端を排除する埋葬機関、なにがなんでも勝たなければならない。
代行者として――――。
*****
「しかし、いくらなんでも性急過ぎるだろう。相手はアインツベルン、最大の難関だぞ。戦いが正式に始まってからまだ1日も経っていない。気が早いのもどうかと思うが。まだ情報収集が完全じゃないじゃないか……、まずそこをだな」
――――生憎だが、夕飯時にそんなくどくどしい説教を聞いている暇なんてこれっぽっちもないし、聞く気もない。
大体、敵が来るのを待っているわけにもいかない。あまりにも今回の聖杯が常軌を逸しているため、厄介なものは早々に倒した方が楽だ。
「いい?相手は昨日の戦いで右腕を消失し、弱っているわ。ここは早々と決着をつけたほうがいいと思うわけ。そこでキャスター、貴方は柳桐寺から攻撃を仕掛けてもらうわ」
私の言葉に呆気にとられたような表情をするキャスター。
柳桐寺―――、聖杯の第一召喚場所。霊脈として最も優れた場所にして、そこの地下には聖杯の元、大聖杯が隠されている。
郊外の森、アインツベルンに最も近い場所だ。
「正気かっ!?あそこからどうやって攻撃しろと……――――まさか」
「そのまさかよ。貴方にはキャスターとしてではなく、アーチャーとして攻撃を仕掛けてもらうわ。前の聖杯戦争では弓のサーヴァントだったんでしょう?キャスターは」
作戦と意図を察したキャスターは黙り込んだ。
そう、私はアインツベルンに遠方からの攻撃と見せかけなければならない。
柳桐寺から攻撃することで、相手は柳桐寺に攻撃を仕掛けようとするだろう。
そして、出てきたところを私とセイバーが攻撃する。
実際はもう少し手間取るだろうが、結果オーライになればそれでいい。
わざわざあちらのフィールドで戦う必要はない。
こちらが有利になるよう、模索した結果がこの作戦だ。
「ひとつだけ聞かせてくれ」
キャスターは真剣な表情で問いかけてくる。
「勝てるのだろうな?」
「勝てなければ、意味がないわ」
確信を持ってそう返事した。
*****
「準備は出来たかしら?アリス」
「はい、今日はきちんとついていきます」
本当に心配だ。この子はいつも巡回のときなどビルから堕ちたりするから。自分が埋葬機関のものだと忘れているのか一般人みたいに慌てて、失神するし。
こんな動き基礎の中の基礎だというのに。
「じゃあ、行くわよ。セイバー」
「はい、ついていきます」
私は少しジャンプして街頭の上に上る。
続いてアリス、セイバーも。
――――浮遊するように屋根から屋根へ飛び乗っていく。
次々と景色が移り変わり、夜の闇と町の明かりがいいコントラストを描いているのを視線の端で捕らえながら、さらに進み続ける。
たん、とステップを踏みたどり着いたのは衛宮邸。
私は知らず知らずのうちに歯軋りをしていた。
「先輩……」
アリスが何か言おうとしていたが、私は再び跳ぶ。
その後を必死についてこようとアリスが追ってくる。セイバーは何の心配もなくついてきていた。
そして、アインツベルンが近くなってきたところで、私は足を止めた。
結界が近いのである。
ここから先は歩いていかないといけない。
舞い上がれ 灼熱の 炎
「fly high scorching heat blaze」
酸素を食い潰し、自身の手の中で灼熱の炎が生成される。
あとは時間を待つだけ。
キャスターが放つ弓に私は魔力で作り上げた炎を付属させ、アインツベルンの森を業火で焼き尽くすのだ。
ついでだが、私の属性は火。 炎の 担い手
火を扱うことだったら誰にも負けない”flame a bearer”と恐れられている存在だったりする。
あんま、嬉しくないが。
なぜなら、同業者からは『近寄ったら焼け死にます』とか言われているからだ。
失礼な奴らだ。
「来ます、先輩」
アリスの声が響く。私はそれを聞き取り、炎を来るであろう弓の的として空に放つ。
ほんの小さな火の球、これをキャスターに射てもらうのだ。
そして、轟音を響かせ、弓が柳桐寺から放たれる。
烈火の如く 燃やし 尽くせ!!!
「raging fire as to burn exhaust」
火が流れ星のような炎弾になり森を襲う。
次々に火が燃え移り、極め付けにキャスターの炎の矢がアインツベルンを炎の海へと変化させた。
爆音があたりに響きわたり、夜の世界を切り裂く炎の色で一瞬空が夕暮れ色に変わった。
「ふぅ、これで後は相手の出方をみるだけよ」
「そうですね。しかし、随分派手にさすが、燃えるおん―――痛いっ、痛いですって!」
その言葉を言う奴は、殺す。
「すみませんでしたっ!ごめんなさい先輩。ゆーるーしーてー」
本気で痛いみたいだ。
なにやら涙まで流している。
「……しょうがないわね。……―――どうしたの?セイバー」
「いえ、なんと言うか、後味が悪いというか。奇襲をかけた上に問答無用のやり方。あまりではありませんか?」
私はため息をつく。
セイバーはそれに気がつき、すこし鬼気迫る表情で私を睨んだ。
「………―――貴方を見ていると、お爺ちゃんを思い出すわ。わたしよりも貴方の方が近いんじゃない?セイバー」
「なにを」
癇に障ったのだろうか?いまにも持っている剣で私を切りかねない。
初めて、セイバーとの考えが対立した。
確かに騎士道を愛するアーサー王にとってこの勝負は卑怯なのだろう。
奇襲なんて、もってのほかだったはずだ。
一対一、それこそ、セイバーが目指す騎士の姿。
「だけど、そんな方法では勝てないの。残念だけどそれが現実よ。私は埋葬機関に所属している―――――どんな方法を使ってでも異端を排除する代行者よ。私の言葉に従ってもらうわ」
優しく正すような声でセイバーを宥める。それと同時にセイバーは反論したくても出来ないという表情でうつむいてしまった。
「本当に、変わってしまったのですね。葉の言うとおりだ」
――――ぴくり、とこめかみが震える。
私がそれを問いかける前にセイバーは背を向けた。
「敵が、来ます」
その言葉に私もアリスも身構えた
守護防壁 展開
「safeguard bulwarkopposite of compression」
火の海の中、一人の人物が不思議な球体に守られながら現れた。
私たちは気配を殺し結界から出てくるのを待つ。
しかし、それを待つことなく、呆気なく奇襲は失敗した。
セイバーが仮面の騎士に襲われていたのである。
「ぐっ、はあっ」
セイバーも負けじと追撃するが、不覚を取ったセイバーはやはり押されていた。
「アリス、逃げなさい!」
「え?」
「早くっ!」
どうやら、私たちの作戦は失敗したらしい。
どうして失敗したのか、分からなかったが、とにかくここにアリスを置いておくのは危険だった。
へたすれば、サーヴァントも持たぬアリスは死ぬ――――。
アリスは少し戸惑ってから、離脱した。
「敵に背を向けるとは、さすが教会の狗どもよ。情けないとは思わぬか?元遠坂家次期当主」
「そうね、だけどあの子は関係ないわ。だから逃がしたの。貴方の相手は私でしょう?」
「愚かな」
確かに、愚かだったかもしれない。
ここで、戦力を減らしたのは愚行。
しかし、ならばあちらとて負けていないだろう。
「どうして、表に出てきたのかしら?アインツベルンの現当主。臆病な錬金術師はお城の中で縮こまっていればよかったのに――――、今までがそうだったように」
戦力の分散による単体戦力はこちらの方が上回っている。
セイバーは最優サーヴァントだ、へたしても負けることはないだろう。
しかも、こちらにはキャスターが柳桐寺でタイミングを計って追撃しようと構えている。
そして私は教会の代行者。
この状況が、どのような結果を生むかは―――――
「さぁ、始めましょうか」
これは殺し合いじゃない。
文字通り……、殲滅。
一方的な虐殺である。
覚悟なんて――――、もうとっくに出来ている。
序 章
「 prologue 」
今度は炎による攻撃ではなく、黒鍵による遠近戦。
手には3本の黒鍵が現れ、それをアインツベルンの当主に向ける。
第 一 楽 章
「 first movement 」
連続投擲による隙を生み出す。
さっき、一瞬だけ見た防護壁は自動的に主を守るものではなかった。
それなりにアクションが必要だろう。だとしたら、その隙に付け込めばいいだけ。
簡単、かつ最も正確な作戦。
こうして、私とアインツベルンの戦いが始まった。
*****
華の作戦は幸か不幸かうまく行っている。
戦力の分散による真っ向勝負。その部分は私も見惚れるぐらい完璧で火のうちどころがない作戦。
アインツベルンのマスターは優れた魔術回路を持ってはいるが、そのどれもが錬金術としての魔術行使。そのため、色々勝手がきく魔術師たちと違って今まで苦戦を強いられてきた。
それがアインツベルンの弱みだと、華は言った。
―――だからこそ、敵のサーヴァントとマスターを離すことでマスター対マスター、サーヴァント対サーヴァントという構図を作ったのだ。
華は魔術師という点に加え、超人的な能力を誇る聖堂教会の代行者に所属している為、戦力は充分こちらに傾いている。
私が納得していないのは、この点だった。
充分すぎるほど有利。
だというのに、わざわざ不意打ちなどする必要なかったはず。
なぜ、あそこまでこだわって不意打ちを狙ったのか。
騎士道を重んじる私には、理解できなかった。
「油断は大敵ですよ」
「っ―――」
体重をかけた重い一撃を食らう。
しかし、それも剣で受け止める。
「それにしても、貴様ランサーではないのか?先ほどから剣のように槍を使用しているが」
仮面をしたまま、私と打ち合いをするランサーは仮面の下で嘲笑。
「しらないのですか?まぁ、薙ぐように使う槍もあるということです」
「そんなことは知っている。私が言っているのは、貴様の構えはランサーのものじゃないということだ。ランサーは槍の切っ先に気力を集め、一点のみを狙う点の攻撃。……―――線の攻撃は剣の構えの証拠。貴様―――ランサーではないな」
ガキンッ――――剣と槍が火花を散らして合わさる。
仮面の中の瞳が、人知れずギラリと野蛮な光を放ったような気がした。
「やはり、さすがですね。このような偽り。すぐに見抜かれるか」
ランサー……、否。
ランサーを名乗っていた敵のサーヴァントはクスクス笑いながら、私の剣を弾く。
そして、同時に距離を離した。
私もそれは追わない。敵の本性を知る為に。
「我がクラスは――――」
緊迫した空気が重圧として、両肩に乗りかかる。
そしてランサーはクラスの証である、武器をその手におさめた。
それは、剣。
「セイバー、だと」
ありえない。
今回の聖杯戦争は私を含めセイバーが2人居ると言うことなのか?
ありえなさ過ぎる。異常だ。
7人の英霊が、7つのクラスに分けられる。
間違ってもひとつのクラスに2人の英霊が属することはない。
しかし、現実。
セイバーは2人居た。こうして、対峙している私が痛いほど理解している。
この仮面の騎士はセイバーだ、と。
「異端というのは、確かに的を得ている」
苦々しく呟いた、私にセイバーのサーヴァントは更に嘲笑した。
「まだ気がつかないのですか?貴女はセイバーなんかじゃない」
「……―――どういうことだ」
「貴女は、聖杯に認められなかったんですよ。聖杯は聖杯を否定し、現代に残ったサーヴァントを聖杯戦争への戦いに参加させることを拒んだ。つまり、貴女は堕ちたセイバーということですよ。アーサー王」
私は、心臓が止まる、思いをした。
一滴の汗が伝い落ちる。
イマ、メノマエノジンブツハナントイッタ?
「き、貴様」
何者だ―――と、問う前にセイバーが答える。
「忘れたのですか?」
セイバーの手が仮面に伸び、仮面はゆっくりとはずされた。
そして、私が見たのは、
「モードレット――――!?」
裏切り――――。
謀反――――。
策謀による様々な篭絡――――。
友人を裏切り、実の兄弟も討ち取り、国を落とし。
全ては、アーサー王への憎しみと、憧憬、嫉妬が突き動かした数々の裏切り。
尊敬していた。
愛していた。
だからこそ、許せなかった。
「私は貴公を息子とは認めない」
信じていたからこそ、崇拝していたからこそ、その存在から裏切られたことが、何よりも憎かった。
許せなかった。
運命の戦い。
剣の丘で対峙した王とその穢れた息子である自分。
自分は剣をあわせて知った、赤き竜。
敵にして、王としての実力を始めて理解した。
成るほど――――、これで国が滅ぶわけがない。
「そんなにギネビィアの分身である私が憎いか!」
そう叫んだ自分に、アーサー王は無情にも冷酷な言葉で返答する。
「私が貴公を憎んだことは一度もない。私が貴公に王位を譲らなかったのか、理由はただひとつ。――――貴公には、王となる器がなかった」
そして、私はアーサー王に倒され、また王も私の手によって倒された。
突き刺さる剣を見上げ、倒れ付す。
空は今でも泣き出しそうなほど、灰色に。
いや、時間が止まっていた。
まるで、物語はここで終わったかのように。
私の時間も止まっていた。
“ 願いはあるか。裏切りの騎士よ “
どこからか、干からびた老人のような声が響き渡った。それは甘い誘惑で、幻惑のように私を惑わし。
「叶うなら、再びこの戦いを」