三章/神の槍が到るところ

 

*****

それは、ひとつの願いだった。

私が手を伸ばしても、届かない至高の存在。大切で愛おしい一人の―――人物。

 

強く、立派で。

遠坂家を継ぐに値する高位な魔術師。

長い黒髪は母譲りで、青い瞳は何もかもを見通す千里眼。

全てが私よりも優れていて、私は子供の頃からそんな姉の背中を見て育った。

姉の背中を追い、手を伸ばす。

しかし、やっぱり届かない指先は空を切り続けた。

諦めきれない、諦められない。ただ、そんな気持ちだけで走り続けた12年。

 

姉みたいな完璧な魔術師を目指した私は、いつか姉の隣に立ち共に遠坂を支えたいと―――そう、それが私の願い。

ひとつの願い………―――――。

 

 

姉が、変わるまで。

 

 

「おいっ、大丈夫か?ボーとしてたぞ」

目の前でアサシンが心配そうに私の顔をうかがっていた。

―――夢?

にしては、リアルだった。

というかあれは現実だろう。あれは私の願い。

昔、本当に姉にあこがれていたときの感情が夢となって表れた。ただそれだけだ。

「大丈夫よ。すこしボーとしていただけじゃない。別に心配するほどのことでもないから、安心しなさい。アサシン」

 

そう、ただそれだけ。

 

姉が私を見下ろしたときの冷酷な瞳が脳裏によぎる。

悪寒が走るような、冷たい、冷めた目。

 

どうして――――?

そう、問いかけたくなるような。あれは人を根本から否定する目だ。

 

やはり、私は姉に恨まれている。

私が遠坂を裏切ったから。

 

でも、ああするしかなかった。

姉がいつでも戻ってこれるようにするには、私という存在は邪魔だったから。

だってあのままでは遠坂は私を跡継ぎとするだろう。

だから、私は姉が座るべき当主の席を私という存在で穢さぬように遠坂を離反したのだ。

 

私は良かれと思って。

この道を選んだ。

朽ち果てた衛宮の屋敷を修理し、人が暮らせるようにしたのも私。

そして、衛宮の姓を名乗り始め、遠坂から離反をしたのも私。

悪いとしたら、やはり私なのだろう。

 

だったら、ひとつだけ聞かせてよ。お姉ちゃん。

 

―――どうして、家を飛び出したの?

―――なんで、……。

 

カチリ。

 

時計の秒針が8時をさし、鍛錬の時刻を告げていた。

私は腰を上げる。

食器を洗い、夕飯の後片付けを終わらせる。

そして、早々と居間から立ち去ろうと―――

「おい、どこに行く」

して、呼び止められた。

 

「なに?」

私は振り向かないで返事を返す。

「どこに向かう」

 

少しだけ、考えて口に出す。

「鍛錬よ。剣の鍛錬。貴方も一緒に来る?」

アサシンは暗殺術に慣れているという。習うのも悪くない。

 

そんな、私の提案にアサシンはyesと答えた。

 

*****

 

ヒュッ、と握った竹刀が風を切る。

一閃―――見えぬ敵を想定して斬り続けていく。飽きずに何度も何度も。

これが、子供の頃より続けてきた日課。鍛錬だった。

 

それがまるで仕事のように、機械的に毎日。

 

12歳まではただの鍛錬として。

12歳、姉さんが出って行ってからは、遠坂の跡継ぎとして。

それから3年、私が遠坂を出てからは――――。

 

(私がこの剣を取る理由)

 

聖杯戦争を有利に進めるため、少しでも身体を動かせれば勝つ可能性が強くなる。

だからこそ、精神を磨く武道を嗜み、日々の鍛錬を忘れずに行ってきた。

ふと精神が乱れ、刃筋が乱れたため竹刀を振るう腕を休める。

肌には玉のような汗が滴っていた。かなりの時間続けたらしい。

鍛錬を始めると時間の感覚がなくなる。

何かに集中すると、時間の流れが速いというか、そういう類のものだろう。

 

「―――?」

視線を感じ、振り返る。

今の今まで気付かなかった視線と、私の視線が交差して、その視線の持ち主は動き出した。

「……―――いつからそこにいたの?アサシン」

アサシンだった。

アサシンは鋭く虚ろな瞳を私に向けて、瞳を閉じる。

「―――精神が乱れていたぞ」

私はまるで呆れているような態度を取るアサシンにすこしムッとしてしまった。

 

アサシンの言うことは分かっている。

分かっているからこそ、気付かれたのが気に入らない。

正しいゆえに反抗したくなるみたいに―――。

「分かってる」

だから、そっぽを向いてアサシンに背中を向ける。

「だから、今精神統一をしてるんじゃない」

少し恥ずかしくなって、適当な言葉を返す。

 

その刹那。

 

背中に悪寒が走った。

 

蛇が背中を這う、そんな生々しい感触。

冷たい、冷酷で非常な殺気が、駆け巡る――――。

「戦いにそんな暇はない。一度始まったら精神が乱れていようが問答無用に殺し合いが始まる、まさに生死をかけた戦いだ。そんな生易しいものじゃない」

 

アサシンの、乾いた声が道場に響き渡って、その殺気の主がアサシンだと今更気付く。

私は身動きひとつ取れなくなってしまって、情けなくも歯をがちがちと震わせることしか出来なかった。

 

「少しでも今みたいな隙を見せれば、殺される」

 

私の手から竹刀が奪い取られる。

が、私は身動きできない。無様にも恐怖に竦んでしまっていた。

 

「刀とは繊細で、担い手一人の精神の乱れが、刃筋の乱れとして現れる。力任せに振り続けても切れ味は下がる一方だ。だから、まず精錬された動き―――川の流れのような鮮やかな流れを作り、その流れに身を任せるように刀を振るう」

殺気が途絶えた。

その代わり、場の空気が緩やかで静かなものへ変わった。

死という静みたいな。

不思議な空間だった。

「――――っ」

わたしは、そんな不思議な空間で、踊る一人の人間に釘付けになってしまった。

息を呑む音がはっきりと聞こえる。

私は素直に感動していた。アサシンが振るう竹刀の動きに。

 

一歩進みでて、目を瞑り竹刀を構える。

竹刀は弧を描き上段に構えられ、一閃――――。

続いて一閃、次々続く剣術に、私は見惚れることしか許されなかった。

私とは比べようもない磨かれた動作一つ一つが、私の心に刻まれ――――……、

(なんて、美しい)

いつのまにか涙をこぼしている。

 

「刀とは担い手の心を写す鏡」

 

澄んだ心で、振るう刀は―――。

 

「精神が乱れれば刀も乱れる」

 

ここまで美しいものなのか。

 

「心を覗き、波の波紋を消すようにゆっくりと精神の波も鎮めていく」

 

アサシンは再び目を開け、澄んだ瞳を私に向けた。

その瞳はどこまでも黒く、奥が深い。底が知れない。

虚無――――。

「!?」

吸い込まれるような錯覚に、私は現実に戻った。

そして、何故か吐き気を感じた。何だというのか。

私でもさっぱりわけが分からなかったが、見たものの意味は分かった。

あれは、恐らく。

 

「視たのか、俺の起源を」

 

そうだ、聞いたことはあったが―――。実際に体験するのが初めてだったため、少し驚いた。

サーヴァントとマスターは共感というか、契約の元、実質的に繋がっている。

だから稀にお互いの過去、視点、考えを垣間見てしまうことがあるらしい。

いまのは、そういうものだった。

 

しかし、視たものが異常だったから、私は吐き気を感じた。

 

真っ黒で、果てしなく真っ黒。届かない光を求めてもがき続ける。自分の身体さえあるのか怪しい空間で、虚を掴みながら、前に進もうとしている自分――――。

そして、カラッポノココロが鈍く疼く。

寂しい、そんな思いさえあそこでは不確かだ。

それでも――――、こんなに空っぽでも。こいつはずっとこれに耐え続けてきたのだろう。

だから、乱れない。

 

乱れることがないから。そもそも乱れることさえ出来ない。

 

アサシンは空っぽだ。

何も入ってない人間という容器。

感情を持たなければ、感性を捨てていれば、乱れることなどありえない。

 

 

故に――――虚無。

 

「あなた、寂しくない?」

問われたアサシンの肩がびくりと震えるのが分かる。

よくよく見れば華奢な体つきをしているアサシンは、その肩を自分で抱きしめながら否定するかのように背中を向けた。

「別に、寂しくなんてない。……――――ただ」

 

ただ――――、何だというのだろうか?

その横顔は、後悔の念が見て取れる。何か、生前あったのかもしれない。

しかし、ここで聞くのは野暮だろう。

アサシンが話してくれるまで、待てばいい―――。

 

ドクンッ

 

「!?」

身体に短い電流のようなものが一瞬身体に走りぬける。

続いて、五感が危険信号を響かせた。

 

ドクンッ

 

「うっ――――!」

定期的に続く、その奔流、痛みは血脈を伝い全身に伝わる。

私は言葉さえ出せずに、ただ耐えるしかなかった。

「―――……!?……おいっ、大丈夫か!?」

ようやく気付いたアサシンが私に駆け寄る。

私はアサシンの羽織る革ジャンを力いっぱい引き寄せた。

「っ、……―――」

息をするのも苦しい、威圧されるような魔力の塊が、私の身体にのしかかり私は呻きながらも……、

「敵の…――、サーヴァン、とよ!!」

 

マスターとして最低限の責務を果たした。

「!」

 

アサシンはその言葉に反応して、道場を飛び出て行く。       レジスト

その背中を見送り、見えなくなったところで私も魔力を身体に通し抵抗を試みる。

 

魔力が魔術回路を通り、全身へいきわたる。

と、同時に身体が軽くなった。やはり、魔力の圧力が純粋にかかっていただけなのだろう。

私は手に力を込め起き上がる。

既に、いつもどおり体が動くようになっていた。

 

 

「アサシンッ!」

アサシンの後を追って一目散に道場を出る。

アサシンは庭の真ん中で、家の屋根を睨んでいた。

私もその視線をたどり見上げる、と―――そこには……―――。

 

「最近の魔術師は挨拶も無しに使い魔を走らせるのか。なんとも下劣な」

 馬鹿にした目つきでこちらを見下ろす男が家の屋根に立っていた。

 

私の魔術師としての知能がこいつはサーヴァントだと告げている。

サーヴントの男は、神々しい光を称え、只者ではないと五感が伝えてくる。

まぁ、サーヴァントなのだから只者ではないのは当たり前だが。

しかし、この威圧感は異常だ。

凛々しい顔つきに刻まれた、複数の苦労の苦悩。

紺碧の瞳は、底を射抜くほど鋭い。

金にも銀にも見える髪が風に舞った。

 

「貴方は―――サーヴァントね」

確認で聞くと、男はにやりと不敵な笑みを浮かべ、

「いかにも、我が身はサーヴァント。クラスはランサー」

腕を振る、そして魔力が固まったかと思えばその手には一振りの槍。クラスの通りであれば、あれが宝具なのだろう。

 

「真名は―――ルー」

 

最初、私には理解できなかった。

なぜ、このサーヴァントは自分に不利になるようなことを言うのか、としか考えていなかった。

しかし、アサシンは気付いていた。

敵の正体を。

 

「……―――太陽神―――ッッ!」

 

 

サーヴァントとは英霊である。

英霊とはすなわち英雄のこと。何らかの理由で有名になり人に称えられた者たちを英雄と呼ぶ。

英霊……―――人に称えられた英雄の中でも、やり遂げたい望み、叶えられなかった欲望、やり直したい過去、掴めなかった栄光。

そのような、後悔や自責、悲哀、願望を抱いた英雄たちはそれを叶えたい一心で世界と契約することが稀にある。

死後もしくは生前で叶えたい事象があれば、それを叶えるために世界から力を借りるのだ。

交換条件にその英雄は死後人類に害を及ぼす存在を抹殺する守護者として世界に駆逐され続ける。

それが、英霊。

サーヴァントとは、その英霊の中でも強い望みを持つもの。

願いを叶えていないものたちが参加する戦い。

願望器をかけた殺し合いである。それが冬木の聖杯戦争だった。

 

だから、英霊はまず最初に名を隠す。

真名は弱点ともなりえるからだ。

 

「太陽神、神様がこんな僻地まで。何をしに来たわけ?」

 

真名を明かすということは余裕があるということ。

舐められたものだ。この人物にとって私たちは敵にも値しないのだろう。

だから、こいつは楽しんでいる。自分の操り糸で踊る私たちを見て。

 

「さて、戯れだ。武器を構えよ、アサシン」

その言葉に呼応するかのように、アサシンはナイフを構えた。

あのナイフは生前から持っていたものらしく、召喚されたときにも持っていたものである。

 

アサシンはクスリと、不適に微笑むと瞼を閉じた。

 

(アサ、シン?)

「神、神か……。ふん、なるほどね」

「何を笑っている?」

ランサーは不機嫌そうに眉を寄せる。アサシンの態度に腹が立ったのだろう。

「いや、ただ」

 

瞳を開ける。

 

「本当に」

 

その瞳は――――――蒼い。

 

「神様は殺せるのかな、と」

その声と同時にアサシンの身体が爆ぜる。

残像しか残らないほど、速い。

そして、走るナイフをランサーは危機一髪、槍で受け流した。

 

ギィィイン、と木霊する不協和音。

刃物同士がぶつかり合った音があたりに響き渡る。

「な、なに」

そんなランサーのうめき声と同時に、

槍がはじかれた。

「戯れも過ぎると、死ぬぞ?ランサーのサーヴァント。俺はお前を殺すことが出来るのだから」

再び、ランサーに近づくアサシン。

 

「はっ、神である我が身を殺すと?その言葉万死に値する罪と知れ!」

ランサーは空に向かって手を差し伸べた。

その手に稲妻が落ち、あたりは光に包まれる。

「ぐぅっ……」

光で目がかすむ。それは、より近くに居るアサシンも同じようで、辛そうに呻いている。

私はただ立ち尽くすしかなかった。

あまりにも、光が強すぎて、何も見えなくなっていたからだ。

 

「さぁ、我が手に収められし光を見よ。人間が私を殺すことなど不可能と学ぶのだ!」

ランサーの言葉と同時に光が収束して行き、ランサーの手に収まるくらいの大きさになった。

その光は徐々に細長く鋭い形状になっていく。

シルエットは―――どうやら、剣のようだ。

 

ランサー、なのに剣?

 

太陽神が所持していたという―――剣?

 

ランサーが輝く剣をアサシンに向ける。

嫌な、予感がした。

「アサシン逃げて!」

直感の元、投げかけた私の悲痛な叫びを聞いているのか、聞こえていないのかアサシンは立ち尽くしたまま。

ランサーはそんなアサシンへ非情な一撃を振り下ろそうとしている。

   アンサラー

「 Answerer 」

ランサーが呪文のようなものをつむいだ。

途端、思い出した。

 

太陽神ルーの持つ第2の武器。ケルト神話に登場する剣。

フラガラック……―――別名・Answerer 。

だとしたら、この剣は伝説の通り、ひとりでに敵を倒す魔剣。

 

アサシンが危ない。

 

気付いたときには遅かった、既に魔剣は放たれ、アサシンを穿とうとしている。

もう、何もかもが間に合わなかった。

 

魔剣はアサシンの心臓にまっすぐ飛んでいく。

私は思わず、瞳を閉じた。

 

その時。

「……―――遅い」

ぼそりとアサシンはつぶやいた。

再び刃物と刃物がぶつかる音があたりに響く。

 

そして、事もあろうかアサシンは剣の切っ先を手で直接掴み、動く剣の動きを押えた。

ナイフが振り上げられる。

「ふっ―――」

依然青く輝く瞳をかっと見開き、ナイフを剣に突き刺した。

 

 

瞬間、剣の動きが止まる。

まるで、痛みで呆気に取られているかのように、しばらく動かなかった。

 

そして、数秒。

 

剣は爆発するように砂になり、あたりに散らばった。

アサシンはその砂塵の中から立ち上がり、今度はランサーを睨む。

私は何が起こったのか、理解できなかった。

ただ、ランサーのもつ宝具がひとつなくなったのは、理解できた。

しかし、どうやって?

 

「万物全てに死期というものがある」

 

私の問いに答えるように、アサシンが言葉を紡ぐ。

 

「生まれた時から決まった死―――、死期が全てのものにある。人の死、物の死、大気、そして俺たちが立つ地面にまで、死は広がっている。……―――――俺はそれを線や点として視ることが出来る魔眼をもっているんだ。直死の魔眼……―――、俺に殺せないものはない」

 

直死の魔眼?

まさか、まさか実在していたというの?

有名すぎて、実在しないとされてきた黄金クラスの魔眼。

魔術師ならば喉から手が出るほど欲しい、根源に繋がる眼である。

根源とは物事の始まり。全ての始まり。

それを目指すことが魔術師の願望、魔法使いへの一番近い近道である。

 

それを、アサシンがもっていた?

「アサシン、貴方は―――何者なの」

畏怖と純粋な恐れから、気付けば言葉を発していた。

その言葉を聞いたのか、アサシンは私に振り向き寂しそうに笑う。

 

「私は、しがない殺人鬼よ」

 

アサシンは再び私に背を向け、今度こそランサーを倒さんと、ランサーを睨む。

一方ランサーは、アサシンを凝視すると、笑い始めた。

「くっくっくく。そうか、直死、なるほど。亜種か」

「何がおかしい」

「なに、思い出し笑いだ。直死の魔眼の保有者よ。……しかし、これも因縁かな。よもや、再びその眼を穿つことになろうとは―――」

 

ランサーが手を前に突き出す。

刹那、庭の端にあった槍が再びランサーの手に収まった。

「戯れで済ませてやるつもりだったが。その魔眼の存在を知った以上、お前だけは殺さなければならない。邪眼バロールの孫として。因縁の決着をつけなければ。覚悟するがいいアサシンよ」

 

「なに?」

アサシンは怪訝そうに槍を睨んだ。

 

瞬間、槍が一直線にアサシンの目に向かって放たれた。

「……―――っ、何度繰り返してもっ!――――!?」

ナイフが軌道をそらそうと槍を弾いたが、槍は弾かれた後もアサシンに前進する。

(自動追尾システム!?)

アサシンは再び迫り来る槍にナイフを構えて、一閃!

しかし、今度は逆にナイフが弾かれてしまった。

「くっ……―――」

 

勢いに負けて尻餅をついたアサシンの真上を槍が通り過ぎていく。

                     

「これが、我が槍の力。さて、戻れ」

言葉の通り、槍はランサーの手にもどる。

ランサーは不敵な笑みで、アサシンのところへ歩み寄った。

 

「我が名は太陽神・ルー。そして、我が槍の名は―――」

 

いけない!!ランサーは宝具を展開するつもりだ。

武器がないアサシンはこのままでは死んでしまう。

 

もはや、選択は一つしかなかった。

  迸る   一陣の風よ

surging  blast

 

魔力を生成し風を巻き起こし、アサシンとランサーを中心に竜巻に近い現象を引き起こす。

周りの風を巻き込み次々規模を拡大させていく。

  刻め   対象を 吹き荒れろ 風よ

shred  object  raged air.!!」

 

規模を拡大させつつ、それを圧縮させる。

究極の真空を作り上げ、ランサーを囲む風の檻と化す。

その中では、カマイタチが発生しランサーを切り刻む。

 

「ぬぅう!ぐ」

風が廻り続ける中、赤い鮮血が混じり始め、幻想的な光景を作り出していた。

赤い風の檻――――。

 

私はさらに風を吸い込ませ、膨大な風の球を作り上げる。

 

「うぅっ、ぐ、お、おい!やりすぎだ、やめろ!葉!」

「!!?」

 

“ 止めなさい!!葉!”

 

ドクンッ――――波打つ自身の魔力が、無尽蔵に身体を蹂躙する。

魔力が身体の中で爆ぜた。

「ねえ、さん」

風が魔力の支えを失って、逃げていく。

台風のように吹き続けていた風がやんだ。

吹き荒れる様々な残骸と、砂塵の中で立ち尽くす血塗れに弱ったランサーを見て、私は意識を失った。

 

 

*****

 

「っう―――、なんという魔力の量だ。保護として掛けておいた守護法が掻き消えてしまった。貴様のマスターは化け物か。よもや、常に自分に対して封印を掛けているなど」

 

封印?

何のことか分からないが、まだ続けるのか。

 

私は傷だらけのランサーを睨んで、ランサーは私の視線に対して、頷く。

 

「その眼、サーヴァントが持つには危険すぎるからな」

ランサーは宝具―――ブリューナクを放つ。

「くっ」

私は、その槍に向かって手を伸ばす。

 

この槍を避ければ、後ろに倒