彼のものに罰を

彼の者に罰を

 

正義の味方、それは困っている人すべてを救い、悪を退治するもの。

それは、人の理想であり、誰もが一度はそうなりたいと願うもの。

しかし、それは一度だけであり、ほとんどが理想の途中で諦めてしまうる


なぜなら、正義の味方というものは全てを救わなければいけないからだ。


そんなことはできないし、実現したいのなら、それこそ長い年月自分を鍛え上げなければならない。


そもそも、そんな長い年月を費やしているうちに、救いの手を欲している存在は死んでしまうだろう。

だから人は所詮夢のまた夢と、諦めていくのが常である。



いや、そうでなければおかしいのだ。



ただ、一人を除けば。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


その少年は、そんな正義の味方を目指し、確実に近づいていった。

誰かを救えば、それを取りこぼす事がないように、守り続け

目に見えるもの全てを救っていった。


しかし、いつだってそんなうまくいくはずは無いわけで。

だから、せめて1人でも多く救うほうにかけた。

だから1人でも少ないほうは容赦なく切り捨てる。

それは悲しいことだけどね仕方が無かった。両手いっぱいに水をすくっても、零すように、全部は救えないのだから。

それでも少年は嬉しかった。

救ってあげた人々が喜んでいるのを見ることが、唯一の生きがいだったのだから。


だけど、その代わり失ったものがあった。

「さようなら、衛宮くん。私じゃ貴方を止めるができなかった。だけど、これまで貴方と過ごした思い出だけは、忘れないから」


そういって、去っていったかけがえの無い少女。

彼女は俺の末路を知って、なお、正してくれようとしてくれた。

唯一、自分を単一で見てくれていた。


救ってくれた正義の味方ではなく、誰かを救っている衛宮士郎を。


でも、俺は最後まで前を見ることしかできなかった。

隣にいる相棒ではなく。

前を進む、未来の自分を。


確かにいくらか、悔いはあった。

救ってあげた存在に裏切られたことなんて、たくさんあるし。

魔術で救った存在に、化け物と蔑まれたことなんて、たくさんあるし。

それでうらまれたことなんて、数え切れないほどあった。


それでも、そのなかで喜び、自分を賞賛してくれる人はいた。

だから、少しの悔いなんて、その笑顔で吹き飛ばせた。


正義の味方として生きている自分が、生きていた証として、救った存在がいる。



ああ、だからこの理想は、自分の生きがいなのだ。



そんな少年時代。

過ぎ去った時間の中で気づけばよかったんだ。

今になって思う。

相棒の遠坂に見捨てられたときから、もう自分は後戻りできなかったのだと。


目の前には救えなかった存在がある。

燃え盛る民家、泣き叫ぶ人々、次々と死んでいく人達。

救えたら、それこそ奇跡なのだろう。

だけど、俺は何もできずにいた。

だって、この光景は見たことがあって、それはアーチャーの記憶だったからだ。


結局自分は敷かれたレールに頼って、アーチャーの後を追うことしかできなかったのだと。


おもえば、

目に見えるものすべてを救うということは、目に入らないものすべてを切り捨てるということで。


おもえば、

一人でも多いほうを救うということは、少ないほうに救わないということで。


おもえば、

目に映るものすべてを救うということは、目に映らない自分は救わないということで。


なるほど、それならあいつのように捻くれるのも理解できる。

そんなことは、始めから知っていたつもりで、結局自分は最後まで理解していなかったという事だろう


正義の味方を目指した瞬間から、本当は誰一人として、取りこぼしてはいけなかったのに。

それから目を瞑り、逸らす事で、理想に追いすがっていたんだ。

すべてを救う。


それをいつしか、目に映るすべてを救うと、妥協していた自分がいた。


その時点で、俺はもう間違っていたんだ。


だから、それを覆そうと。

未来の末路を意地でも変えようと、足掻いていた。


だったら、最初から正義の見方なんて目指さなければよかったのに。

誰かのためだけの味方になれば、ここまで傷つくことなんて無かったのだろう。



空には変わらず月が浮いている。

確かこの後、俺は世界と契約し、意識の無い守護者としての群に成り下がるはずだ。


だったらここで、目の前の者たちを救わず、正義の味方をやめれば未来は変わるのだろうか?


そうすれば、自分はどんなに救われるのだろうか?


そこまで考えて、嘲笑した。

自分自身を。


だって、それができないから、今まで正義の味方を続けてきたんだから。

だから、俺は月に唱える。

「世界と契約しようる目の前のものを救う力を与えよ。さすれば、この身の死後を世界に授けよう。

煮るなり焼くなり、好きにするがいい」


呟いて、上がらなくなった両手に力が入り、傷ついた体が癒され、満たされるのがわかる。

どうやら俺の願いは世界に受理されたらしい。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


そうして、一人の正義の味方が死んだ。

魂は輪廻という、魂の回帰から外れ、永久に縛られる。

人間の守護者、アラヤという抑止力としての群体に。


男の最後はあっけない。


信じた理想に裏切られるのはもう少し先の話だが、すでに道はひとつ。


ただ意思も無く、人間の害となる、人間を消していく。

救うことを願い守護者になったのに、人間を殺すことでしか人を救えない。


だから、いつか出会う。


理想に裏切られ、そんな理想を信じる過去の自分を殺すために。

時代をさかのぼり。

懐かしき少女に。



再会のときは近い。







◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


それから後のお話。


一つのよくある墓場に、彼女はいた。

名前のように凛とした女性は、一つの墓前に花を置いて、隣にいる自分の妹の方に手を置く。


「救えなかったのは、確かに悔しいけどね、桜。私たちはいつか再会できるわ」

どこか遠くを見るように、凛は呟く。


そういつか。


未来かもしれない。

過去かもしれない。

機会があれば今日かもしれない。


無限に広がる並行世界。

だから、明日、明後日、明々後日。

並行世界が生み出す可能性は無限に広がる。


だからきっと、どこかの世界で。

また、めぐり合う。



再会のときは近い。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


と、いきなり、すごい衝撃。


と、爆音。

どうやら自分は誰かに召喚されたらしい。


何か大切なことを忘れているような………?


そんなこんなで考えていると、すごい血相でドアを蹴破った少女が現れた。


どうやら、この少女が自分の召喚者らしい。

しかし、ずいぶんと手ひどく扱われたものだ。

おかげで記憶が飛んだじゃないか。


腹いせに少しいじってやると、事もあろうか、少女は三度しかない絶対命令権、令呪を使用してきた。

なぜかは知らんが、この無鉄砲ぶり、懐かしいような………。



「でわ、マスター、君の名は?」


この問いに目の前の少女は苦笑すると

「私は遠坂凛」


瞬間、ほぼほとんどの記憶を取り戻した。

ああ、そういうことか。

でわ、自分はアーチャーか。


「てわ、凛と。ああ、この響きは実に君らしい」






めぐる月日、混ざり合う過去と未来。

多数に分岐する選択肢。

それに連なる無限の末路。

さて今回はどのような聖杯戦争が行われるのか。

それを知るのは、それこそ神のみ。



再会は果たされた。



また、聖杯戦争の火蓋がきって落とされ、弓の英霊は自らの罪を消すために、過去の己を消す。


それが、正義の味方としての末路の末の罰なのだから。






その時は近い。




Publish at :2008/05/03(Sat) 20:13

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