Gate lain

バレンタイン。
それは女性が好意を持っている男性に渡す愛の形。
しかし、近年それだけではなくなってきた。
お世話になった人たちに渡す義理チョコ。
仲良くしている友人に渡す友チョコ。
さまざまな理由付けで渡される、この日のチョコは少し特別な味がする。
義理だ義理だと思っていても、ただのチョコだというのにおいしく感じるものなのだ。
まぁ、毎年この日が来るたびにむなしくなる男性も多いのだが………。
「はい、兄さん」
「はい、黒桐」
自分は、そんな思いをすることはないようだ。
今年貰ったチョコは妹の鮮花と、僕の勤務先である事務所の所長・橙子さんからの2つ。
まぁ、完璧に義理チョコである。
それでも、貰えない人よりもマシだろう。
それに、プレゼントというのは気持ちだ。
貰えるだけで心が温かくなるものなのだから、ありがたい。
「ありがとう、鮮花。ありがとうございます、所長」
だから僕は心のそこからお礼を言った。
物を貰わなくても、貰っても、この気持ちだけは忘れてはいけないと思うから。
そんな僕を見て、橙子さんはククク、と歪な笑い声をこぼした。
………、酷くいやな予感がする。
「どうかしたんですか?橙子師」
聞きたい、だけど聞きたくない僕の気持ちを代弁して、鮮花が代わりに橙子さんに問いかけた。
橙子さんは、吸っていた煙草を灰皿に押し付けて、火を消す。
じゅう、と乾いた音が室内に響いた。
「なに、まだ本命の子からチョコをもらえてなくて、寂しそうな顔をしていたからな黒桐が。
おもしろくて、つい笑ってしまったよ、すまないな」
………、なんてことを言うんだこの人は。
「そんなことありません。貰えるだけでもありがたいのに、寂しいなんて……」
「じゃあ、黒桐は式からもらえなくてもいいんだな?」
「うぐっ」
痛いところを突かれた。
確かに、僕は式に友人以上の感情を持っているけど、それは式も同じなのか?
少し不満なところがあった。
だって、式はそんな事言わないし。意思表示もしてこない。
でも、信じていたかった。
式も僕と同じように想ってくれているんだって。
………しかし、色恋沙汰に疎い彼女の頭に”バレンタイン”なんて言葉が載っているのだろうか?
可能性は限りなく0に近い。
だって、あの式だ。
希望は持たないほうがいいだろう。
「兄さん」
と、今まで口を出さなかった鮮花が
「ひっ」
すごい形相で僕をにらんでいる。
なんというか、般若の如く……というのはこーいうことなのではないだろうか?
僕はそんな鮮花に対して、情けなく震えながら、はい、と返事をする。
これでは、兄貴としての面目がないじゃないか。
「兄さん、私はあの事件以来、ずっとあんな女とは縁を切ってくださいといっていたはずです。
兄さんは魔術師でもなければ、殺人鬼でもないんですよ!?
それなのに、あんな目に合わされても、懲りずに一緒にいるんですから。兄さんにはもっと、普通の子が似合ってます、たとえば私とか!」
いや、お前も十分普通じゃないから。
あと肉親同士での結婚は犯罪だから。
それに、式は確かに普通じゃない目は持ってるし、ナイフなんか持ち歩いている子だけど。
中身はちゃんとした一般人だ。
ただ、自由が聞かないチャンネルがひとつあるだけで、その他は普通の女の子なんだ。
だから、鮮花の言葉には頷けない。
式は、僕の想い人でもあるんだから。
「別に僕は普通の子じゃなくてもいい。大切なのは人を想う心だろう?だから、別に問題を抱えてる子でも僕が好きならそれでいいんだ。恋愛は与え、返されるものだろう。僕は式が好きだ。
それだけで僕の日々は満ち足りるんだから、これでチョコがもらえないからっていじけたりするのは、
おかしいと思う」
僕は式がいないのをいいことに、本音を口にする。
本来なら本人に伝えなくてはならない事だが、今言わないと鮮花も退かないだろう。
だから口にした言葉。
だけど
「なんてこといってんだ、この馬鹿!!」
聞き覚えのある、というか式張本人から返事が返された。
大量のチョコを雪崩のように投げられて。
というか、痛い。
数十個にわたるチョコの魔弾をすべて全身に当てられて、
「〜〜〜っっっ」
うめく自分、情けないな本当に。
「やぁ、式。それよりなんだ、このチョコは?全部黒桐へのプレゼントか?」
ニヤニヤしながら、事務所の入り口付近でチョコを投げたままの姿勢でいる式に問いかける。
できれば、それ以上煽らないでください。
式が暴走したら、ホント手がつけられないんだから。
式は、ふぅ、とため息ついて、我武者羅に前髪をかきあげた。
しかし、その動作は落ち着いており、別段怒っている訳ではなさそうだ。
どうやら別のことでいらいらしているらしい。
というか、困っている、かな?
「どうして、人ってんのは、イベントとか行事に気合入れんのかな?朝に下駄箱で2・3個。教室でクラスメイトから10個ぐらい、昼には他のクラスから10個ちょい、帰りには男からも2・3個渡されてさ。
しまいには、手紙まで渡された。なんつーか、返すこっちの身になってほしいよ。
なんで、知らないやつからチョコ貰わなくちゃいけないのさ」
紙袋2つ分のチョコ。
式はこのチョコに苦しんでいるらしい。
しかも、本来チョコを貰う側である男子からも渡されたんだという。
どうやら式は学校では随分な人気者のようだ。
僕が式とともに高校に行っていた当時は式は怖がられていたんだけど。
いや、この表現は正しくない。
あまりにも式は人に対して拒否反応、……まぁ、オーラ?みたいなものを放っていて、クラスのみんなも近寄りがたいイメージがあったのだろう。
確かに、一歩退いた視点から見てみれば式は大変魅力的だ。
艶やかな黒髪、流麗な仕草、男とも女とも見れる中性的な端整な顔。
式はかわいいというか、凛々しいとか、美しいという表現があっているような気がする。
成る程それでは、女子にも男子にも人気になるわけだ。
彼女を好きでいる僕からみれば、彼女の魅力に気づいてくれて嬉しいのだが。
男としては複雑だ。
「どうした、黒桐。複雑そうな顔をして」
どうやら思っていることが顔に出ていたらしい。
僕は、チョコの山から顔を上げて、式を見る。
「ごめん、少し妬けた」
「!!」
所長からかわれる前に口にする。
あの人に手綱を持たせてしまったら、どんどん土壺にはまってしまうのが目に見えるからな。
しかし、式が凄い真っ赤な顔をして、凄い形相でにらんできている。
だけど、そんなに真っ赤では威圧感がないというか、恋愛と突拍子のない行動に弱い式がこうなることはわかっていた訳で、少し自分でも狙ってみました。
僕は、そんな微笑ましい式の姿を見て、にっこりと微笑む。
「ふむ、実につまらない」
「はい、同感です」
人をいじるのが生きがいの外道魔術師と、その弟子は揃ってそんなことを口にして、
「これ以上ここにいたらバカップルの気に当てられて酔う。どうだ、今日は野外講義ということで鮮花、少し外に出ないか?」
「はい、是非」
二人は散々言って、おまけに大きなため息をついて、そのまま事務所を出て行ってしまった。
(まぁ、バカップルって言われたら、頷くしかないんだけど)
たしかに、自分は両儀式にベタ惚れだ。
それは事実だから認めよう。
そうして2人っきりになった事務所で、式はおもむろに咳払いをして
「安心しろ、俺は黒桐しか興味ないから」
真っ赤な顔に、さらに拍車をかけて赤くなった顔は、テレながら嬉しいことを口にしてくれた。
僕は再び微笑んで、
「ありがとう」
と、つぶやく。
式も、そんな僕を見て呆れたように、諦めたように、少しだけ笑ってため息をつき
「そういえば」
と、懐から小さな箱を取り出した。
白い包装紙に”感謝の気持ちを込めて”という意味のThis is a small token of my gratitude.と
書いてあるシンプルなものだ。
それを僕に渡して
「バレンタインのチョコ。いろいろ迷惑かけてるからな」
ふんっ、と恥ずかしそうに照れ隠しをする式。
本当に、心から嬉しかった。
僕は大切なその小さな箱を両手で握って、微笑む。
「食べてもいい?」
「あ、ああ」
僕は受け取ってすぐ、丁寧に包みを開ける。
そして、中に入っていた6つのチョコレートから1つをつまみ、口に運ぶ。
誰かから貰うものよりも数倍嬉しい想い人からのチョコレート。
その味は少しほろ苦い、ビターな味がした。
「ありがとう」
僕は、それが嬉しくて、何度もありがとうと繰り返す。
「いや、………うん、ああ。どういたしまして」
式は気恥ずかしそうに、頷く。
「それと」
僕はその勢いに任して、今まではっきり口にしてこなかった単語を口にする。
「好きだよ、式」
はっきりと、聞こえるように。
式は目を見開いて、呆気にとられるが。
「ふ、ふん。俺だって、負けないぐらい好きだ」
恥ずかしいのか、背中を向けてそういった式。
そんな彼女がたまらなく愛しくて。
再び、あの誓いを口にする。
はな
「式、君を一生、許さない」
気付けば夜。
外は日が落ち、すっかり真っ暗だ。
もう少しすれば、仕事の勤務時間も終わる。
そしたら、一緒に帰ろう。
見慣れた帰り道を、二人で歩いて。
あとがき
初の空の境界SSでした。
今回はバレンタインという題材があったので書きやすかったですが、今度は
新しいジャンルにも挑戦したいと思っていますので。
よろしくお願いします。
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