狭間
※ネタバレが含まれています。
眼下に広がる、高層ビルの屋上。
そこにはセイバーとそのマスターがいた。
すべてはここで終わる。
セイバーをここで倒したところで、私の魔力は尽き消えてしまう。
どちらに転がったところで自分が消滅する事は変わらない。
(なら、私とて遠慮はしません)
天馬に跨り、セイバーを見下ろした。
宝具を解放する
それが意味にすることは、この世界との別れ。
別に悔いなどなかった。
元より確固とした望みがなく、
ただ願いが叶うと言うから半信半疑でこの世界に現界しただけのサーヴァント。
だから、消滅したところで、別に悔いなど残らないだろう。
ただ唯一、悔いがあるとすれば、それは彼女の事だ。
召喚されてすぐ、マスターとしての権利を放棄した、私のマスターであるはずの少女。
もし彼女が今でも、私のマスターであったのであれば、あるいはこの戦いでも勝機はあっただろう。
マスターとして申し分のない魔力量。
しかし、それは今更だろう。
結局彼女は私を放棄し、私のマスターは彼女の兄であるシンジに移ったのだから。
(過ぎ去った事を思い返したところで、悔いたところで、運命は変わらない)
ただ、願わくば、もしこの世界と連なる平行世界で、彼女が救われるような世界があるといい、そう回想し、現実に目を向ける。
高層ビルが立ち並ぶ新都の中で尚、高さを誇るビルの屋上。
セイバーは剣を隠していた神秘を解放した。
ここからでも感じる、風の嵐。
さながら台風と言ったところか。
黄金の輝きを放つそれは、空中に止まる私に向けられた。
「私の宝具は強力ゆえ、使えばどうしても人目についてしまう。まだほかにマスターがいる以上、おいそれと使うわけには行かなかった」
しかし、もう遠慮は要らない。
どうせ消えるならばせめて、派手に消え去ろうではないか!
高まる鼓動、生の実感。
久しぶりに味わう、殺人という名の―――――衝動。
「けれどここなら邪魔される心配はない、ここでなら都合がいいと分かりましたから」
私は宝具を形成する。
手には黄金に輝く一本の縄。
それは騎乗兵が、自らが乗る馬を操るための手綱―――――。
「それが貴方の宝具か、ライダー」
下にいるセイバーが私に問う。
「ええ、私の趣味ではないけれど、この仔は優しすぎて戦いには向いていない。
こんなものでも使わないと本気になってくれないのよ」
私はそれに静かに答えると、優しく跨る天馬を撫でた。
それで終わり。
せめてセイバーを道連れにして、消え去ろうと
「やれライダー、はじめはその女だ、跡形も残すなよ」
言われなくても分かっている。
歪で性根から腐っている、元マスターが私に命じた。
空を大きく旋回し、手綱を強く握り締める。
どうやら屋上に陣とるセイバーも、宝具を解放するようだ。
それを私は確認すると、天馬をセイバーに向けて疾走させた。
それは流星のごとき疾走。
「”騎英の”」
魔力をこの一撃に、全てかけて
「”手綱――――――”」
“ 騎英の手綱 ”
神秘を形成し、ここに真名を表し、宝具を解放した。
セイバーが何かを喋っているが、流星となった私には届かない。
感じ取れたのは、私と同等、もしくはそれ以上の魔力が、彼女一点に集まったことと、
「”約束された、勝利の剣―――――!!」
聞こえた宝具の真名だけ。
屋上を包み込んだ大きな輝き、エクスカリバーと告げられた剣は、私に振りかぶられ
それは、星の輝き。
人の手に余る神秘。
エクスカリバー、星々によって作られた聖なる剣。
ならば、己が消える事も道理。
「あぁ―――――」
繰り返すが、私に望みなどなかった。
遠い昔より、姉達と共に『形なき島』に追われた時だって、
たいした憤りも、怒りも感じなかった。
それどころか、邪魔されず、日々を過ごせるなら、それでも構わないと思っていた。
しかし、外敵は常に尽きなかった。
何故なら、美しいと謳われる、姉たちを求め、人々は図々しくも、領域を侵す。
私はそれを追い払い、必要なときは殺した。
殺し殺し尽くす、この行為の中に私は、快楽を感じた。
いつから、歯車は狂ってしまっていたのか。
どんなに姉たちにいじめられ、遊ばれても、そんな日々が好きだったから、いつまでもその日々が続いてくれと、邪魔な者たちを殺していただけなのに。
“ 姉たちを守るために、外敵を殺す “
と言う目的は、いつのまにか
“ 姉たちを狙う外敵を殺すために、守る “
手段と逆になっていた。
血を浴びるのが、快感。
体を引き裂くのが、快楽。
悲痛な声、懇願して泣き付いてくる、その人の生を踏み潰すのが、生存理由となった。
私は生きながらにして、怪物になっていった。
声が脳に響く。
あの時、姉上達は怪物となった私になんと言ったか。
怪物と蔑まれたか、
それとも、穢れたものと罵られたか、
いや、あの時逃げられたはずの、姉上達は
「それで貴方が救われるのなら」
と、ステンノ
「私たちは、貴方の一部になりましょう」
と、エウリュアレ。
この二人は自ら怪物となった私に身を捧げたんだ――――――。
私は何を見ていたのか。
私は何を信じていたのか。
隣を見ればいつだって、自分を愛し、愛でてくれた姉たちが自分を支えてくれた。
忘れていた。
私の望みは、自ら私の内に取り込まれた姉たちを出してあげる事ではなかったか。
「ああ、らしく、ない」
そこで、私は現実に帰る。
長い、長い過去への回想から戻り、光に包まれた自分の体を見る。
久しぶりに見る、自分の体。
石化の魔眼を封じていた目隠しは消滅していた。
そうか、一度でも、目隠しを外し、姉達の顔を確認すればよかったんだ。
そうすれば、疑心暗鬼も生まれず、負の感情に飲まれず、怪物にも堕ちずに済んだかもしれなかった。
だから、一度でも、目隠しを外し、姉達の顔を確認すればよかったんだ。
姉達はいつでも、私に優しい笑顔を向けていてくれたというのに。
(本当に私らしくない、こんなにも簡単に望みが見つかるなんて。しかも死ぬ前に)
なんて、滑稽と苦笑しながら
(貴方は染まらずに、自己を保ち続けてください。貴方は強い、だから)
きっと見えているだろう。
マスターとサーヴァントは繋がっている。
それがたとえ移った所で変わらない。
私と真のマスターは繋がっているのだから、きっと今頃、あそこから見ているのだろう。
私と彼女は似たもの同士。
いずれ堕ちてしまう身。
「せめて、最後に」
光の中で自分を忘れた。
「貴方の顔を」
消滅する中で感情を忘れた。
「この目で」
最後に、すべてを失くした。
「見たかった」
いつか心開いてくれるだろうと淡く望んだ事も、いつか共に背中を預け戦う事を願った事も、彼女と彼女が言う先輩といわれている人と共に居られる日を、夢見た事も。
――――――― 一度だって見ることが出来なかった、笑顔を見てみたかった。
その望みさえ、全て灰になり、消えた。
その魂は聖杯へと還り、巡る。
それが叶う日が来るのか。
あるのならば、きっとそれはこことは違う別の世界。
無数に繋がる平行世界でその望みが叶うであろう。
しかし、ここでこの物語は終わり。
これは、生と死の狭間、無と有の狭間での、ライダーの物語。
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後書き
これは、セイバーVSライダーのライダー視点です。
若干物語と違うかもしれませんが、ご了承を。
彼女とか、真のマスターとかは皆さん知っている通り、桜です。
いずれ堕ちるとか、何とかは黒化の事。
とりあえず、無事書き終わりました。
元あった物に加筆・修正した物なので、実質大して時間がかかっていないのですが。
リクエストしてくれた方には謝罪の限りです。
リクエストから大分たっているのに、すみませんでした。
でわ、ここらへんで。