紅い涙 動

紅い涙 「動」
 
5/
 
衛宮家
「大丈夫か?遠坂」
俺は遠坂の部屋のベットに遠坂を横たえた。
 
遠坂は相変わらず、息が荒く体が熱い。
 
どうしてこうなったかというと、数十分前に遡る。
 
 
4/
公園中に漂う、黒い魔力の霧。
その真ん中でくすくすと微笑んでいるのは桜だ。
「桜」
遠坂が桜の黒い触手に囚われ、生気を吸い上げられながらも、その目は以前と強気のまま桜を見下ろしていた。
「はい、姉さんのその目が好きでした。何事にも折れぬ、強い心。それが―――――――
羨ましく、憎かった」
ふっ、と嘲笑する。と、触手はギリギリと締め付け強くしていく。
 
「うっ、くぁ」
それに遠坂は苦しそうに呻く。
桜はそれを見ると、満足そうに頷いて俺のほうに向き直った。
 
遠坂に背中を向けて。
 
それをチャンスと見たのか遠坂が、こちらに向かって残り3つと少ない宝石を、
「Ein KOrper ist ein KOrper―――!」
なけなしの魔力と共に、放った。
「っち、Es erzahlt―――Mein Schatten nimmt Sie……!」
 
桜は宝石魔術を相殺するために遠坂の方へ向き直る俺に背を向ける。
「投影―――――開始」
俺は即座に干将莫耶を投影し、遠坂を縛る触手の方へ投げた。
桜はそれに気付き、こちらに向き直ったが
「ごめん、桜」
足に強化をして、一瞬で遠坂の所に駆けつけ、干将が触手を断った事によって自由になった遠坂を俺はキャッチした。
 
「っと」
 
遠坂を地面に下ろし、桜に向き直る。
 
「そう」
桜の周りでは、さっきの倍の量の魔力が桜の周りで渦巻いていた。
「先輩まで私の邪魔するんだ」
 
黒い触手はうようよと蠢き、いまかいまかと桜の命令を待っている。
「いや、違う。別に邪魔なんてしてないし、そもそも訳が分からない、桜がなんでこんな事したのかも」
俺は思わず叫ぶ。
戦いを望んでいない、とそう叫んだのに。
桜は狂ったかのように笑い始めた。
 
「そんなの決まっているじゃないですか。私は欲しいものを手に入れるために、邪魔なものを削除しようとしているだけですよ?それは先輩も例外じゃない」
 
桜は艶やかに笑うと、その顔に歪な痕が浮かび上がった。
「私に埋め込まれた聖杯のカケラ、聖杯は私のカケラと共鳴して呼び寄せ合う。
 
                    聖 杯 戦 争
さぁ、はじめましょう?望むがままの殺し合いを」
 
桜は片手を静かに上げると、始まりの宣言をした。
その言葉に反応したのか、影は蠢くのをやめ、主の命を待つように、止まる。
それに桜は満足したのか、にっこりと微笑むと
 
「誰も私には勝てないし、私は誰にもまけることはない。頼み綱の姉さんの魔力だって零に近いんですから。私が恐れるものは無い、私は強くなった。もう、誰にも負けない」
自分に暗示をかけるように呟いた後、上げていた片手を、静かに差し出す。
 
そして、止まっていた影が動き出し、桜を包み込んだ。
「?」
桜は苦しそうにもがき、胸を掻き毟る。
「さ、桜?どうしたんだ?桜!?」
 
遠坂をそっと横たえ、すぐに桜の元に走り寄り、ひざを屈した桜に屈みこむ。
「嫌、嫌だ先輩。私は、嘘、もう終わったはずなのに、嫌、私、ああぁあ、どうして私
苦しい、苦しいです先輩。助けて、なんで聖杯が、また」
桜は誰にでもなくただ呻いていた。
 
桜を包み込んだ黒い影は浸透していくように、桜の体の一部になるように。
だけど、桜は嫌がっている。
なら助けるまでだ。
「今、助けてやる。桜!!」
 
 
手を伸ばし、掴んだものは、桜のリボン。
それを取った瞬間、桜の体が弾けた。
「!」
弾け、桜と俺の間に数メートルの距離が開く。
俺は驚愕で動けないのに、桜は悠然と立ち上がると
「まだ、早い」
 
そっと、小さく呟いて、
桜は俺と遠坂に背を向け、ふらふらとおぼつかない足取りで公園から姿を消してしまった。
 
「しろ、う、無事?」
遠坂が苦しそうに、しかし俺の無事を信じて問いかける。
その声は安心するもので、だけど事態は変わらない。ただ冷たい現実だけがそこにあった。
 
とりあえず俺は、重症(魔力を奪われて瀕死状態)の遠坂を背負って自宅に戻って
 
5/
今に至る。
 
ぐつぐつと煮える鍋の前で、考え事に耽る俺をじっと見つめる人一人。
「あのさ、遠坂。ご飯だったら持っていくから部屋で待っててもいいんだぞ?」
ついに耐え切れず、視線の元に振り返ってしまった。
 
あの後、
 
『いたーい、つらーい、あつーい、くるしー』と言いながらも、居間に行く折れの背中を追ってきた遠坂。台所で料理している間も、監視と称してじっと俺を見ている。
「遠慮するわ、どうせ暇だし、やることないし。そもそもアンタをほっとくと何しでかすか分かったもんじゃないから、そっちのほうが体に悪いわ」
む、確かに少しは考えていたけれど。
「それに、聞かないの?桜と私のこと」
ん?さっきとは違って妙にしおらしい。
「何を?――――――………ああ」
俺は遠坂の考えるところを理解した。
 
遠坂凛と間桐桜は姉妹らしい。
これは正直驚いた。
そもそも似ていないし、大体俺は今日の今日まで桜が魔術師だってことも知らなかったんだから。そんな事知っているわけが無い。
 
しかも、今日の公園での出来事は驚愕の嵐と言っても過言ではなかっただろう。
魔力探知に疎い俺でも感じ取れるほどの魔力の強さ。
聖杯の中身”この世全ての悪”が具現化したかのような、凄い力。
それを桜は糸も容易く扱い、使いこなしていた。
 
 
まるで、それが体の一部かのように。
 
そういえば桜はこうも言っていた。
自分に埋め込まれた聖杯の一部が、聖杯を呼び寄せている、と。
アレはどういう意味だったのか。
 
「桜は、自分の体を寄り代に聖杯を召喚しようとしているのよ」
俺がそれを言葉として形にする前に、それを見越した遠坂はそう呟く。
「士郎の疑問はもっともよ。どうして桜が聖杯の寄り代になる必要があるのか。また、どうして桜はあの影を自在に扱えるのか。
聖杯は望むものがいれば現れる。その思いが強ければ強いほど。しかも桜の中に聖杯のカケラが入っているなら、話は早いわ。磁石のようにひきつけあう力が働いているのよ、桜と聖杯には。それで本来繋がるわけのないパスが繋がっているってわけ。
後もうひとつ、桜が影を自在に使えるわけ。
それはいたって簡単よ、桜は遠坂の魔術師。私は五大元素、桜は架空元素。元々形の無いものを作り出し具現化させることに長けている魔術師だから」
遠坂は急かされたように喋りだす。というかいつもの遠坂に戻った感じ。
 
「つまり、架空元素の桜は元々形の無い”この世全ての悪”とやらに形を与え、限界させているって訳か」
「ご名答」
遠坂は人差し指を立てて、先生みたいなポーズを取っている。
こうやっていると、不思議と聖杯戦争中に戻った感じだ。
魔術講義、は今でも続いているが、今の彼女は妙に新鮮だった。
 
「ちょっと待て」
「ん?」
すこし、いやだいぶやばい問題に気付いてしまった。
「桜は聖杯の中身を自在に扱っているんだよな?」
「うん、そうだけど」
としたら、やっぱり。
 
「それってサーヴァントよりも強いんだよな?」
 
遠坂はぽかん、と呆けた顔をした後、その事実に気付いたのか青ざめた。
 
「今回の勝負、勝ち目、あるのか?」
内心、あると言って欲しかったが、案の定
「ない、かも」
照れ笑いをしながらの遠坂に淡い期待と願いをノックアウトされてしまった。
 
 
 
5/
「うっあがはああ、おおぉお、何をする、桜」
 
足元で虫が鳴く。
 
「なにって、そうですね。あえて言うなら復讐でしょうか。お爺様」
 
私はそれを見下している。
 
「ぉぉおお、何故、ぐあっは」
 
私はそれを踏み潰そうと
 
「何故?不思議な事を聞くんですね。お爺様が前々回の戦争で私に植え付けた聖杯の一部が聖杯を引き付けている。共鳴している。これがどー言う意味か分かりますか?」
 
足を足元の赤黒い虫に近づけて
 
「違う、わしが聞きたいのは、何故復讐など!っっ!?」
 
勢い良く潰した。
 
「それを貴方が言いますか、お爺様。何故復讐をですって?私の体を幼い頃から毎夜毎夜
汚し、蹂躙し、陵辱し、舐めまわしておいて、いまさら復讐をする必要性がわからないなど。………―――――ふふふふ、あはははははは、笑えますね。馬鹿馬鹿しい」
 
私は次の獲物を探しさまよう。
 
姉さんか、先輩か。
いや、あの二人は最後までとって置こう。
 
「ああ、そういえばこの家にはもう一人虫が住んでいましたね」
くすくすと笑ってゴーゴー
 
 
湿っていて、居心地の悪い蟲蔵には、人間だったものが一つ残っているだけ。
「まだ―――――足りない、から」
私は蟲蔵を後にした。
 
 
 
◇◆◇◆◇◆
 
近い
 
終わりが近い
 
始まりが近い
 
すぐそこまで、迫っている。
 
呼ばれている。
 
小さく、大きく
早く、遅く
低く、高く
 
黒い影は躍る。
主の思い通り踊る。
軽いステップは主の気持ちの具現。
 
楽しい。
今まで辛かった事が、こんなにも楽しく心地よい。
 
主が消えた蟲蔵の中黒い影は躍り続けた。
 
まるで、何かの儀式のように、延々と踊り続ける。
 
あるいは滅びるまで、それは続くのだろう。
 
その滅びを待ち、影は”自分”が近づいてくるのを感じくるくると踊り続ける。
 
黒い、黒い聖杯が、すぐそこまで迫ってきた。
 
7/
 
私は昨日の一件で魔力のほとんどを失ってしまった。
 
「ん〜〜〜」
本来なら自分の工房で回復を待つのが得策なのだろうが、昨日話し合いの結果、士郎から魔力を分けてもらうことになった。
 
その、魔力を分けてもらうって言うのは………――――アレの事なのだが。
 
「って、何考えてんのよ」
つまり、自分の隣には士郎が寝ていて、自分も―――――あれ?
「服、着てる」
予想とは裏腹に、自分はきちんと服を着ている。
士郎の服で、ぶかぶかだが、何故かそれは心が温かく―――――?
 
 
「ん?待った、私が知らないうちに服を着てるっていうことは」
 
まさか、こいつ私が寝ている間に、私の体を
辻褄がぴったりと合った瞬間、私の中からどうしようもない、怒りの感情が煮えたぎってきた。
相変わらずこいつは幸せそうにすやすや寝ているのを見て、ますます苛立ってくる。
何故こんなにいらだつのか、それは私がこんなに慌てて、無様な姿を晒しているのに、
当の本人は我関せずと、穏やかな表情ですやすやと寝ているからで。
「ふぅん、そう、いい度胸ね。衛宮くん」
すぅー、と息を吸う。
 
「この、唐変朴―――――!!!」
 
と、いま、台所でぶつぶつと文句を言いながら調理している士郎を起こしたのは約30分前。
すっかり、さっぱり、清々しい朝である。
 
「そりゃ、朝からストレス発散すれば、清々しいよな」
私の今の心境を読んだのか、士郎はまたぶつぶつと文句を言い始めた。
 
「あら、男としていつまでも根にもつなんてみっともないわよ?もっとシャンとしなさい
シャンと、ね。士郎」
そんな不機嫌な彼に大サービス。
後ろから思いっきり抱きつく。
 
「うっ!」
そうすると士郎は期待通り居心地悪そうに(しかし表情はにやけているが)体をねじる。
私はその反応を楽しむとすぐに離す。
これが私と士郎の休日の定番となっている。
 
ふ、と
 
後ろから殺気が迸る。
昨日と同じ、失う感覚と、殺されるという危機感。
 
 
それは、いつもどおりに、この家に忍び込み
そして異常な姿で顕現した。
 
6/
 
昨日の夜、街の人間から大量の魔力を吸い取ったことで、だいぶ呪縛は緩まっていた。
 
起きてみれば体は軽く。
自我もちゃんと保てている。
「これなら、もう大丈夫。昨日は……少し、驚いただけ。だから今日もいつもどおり行って、すみませんって謝るんだ」
 
制服に着替えて、朝食を作るため、家を出る。
                         ――――――――――どこに?
先輩の家で、いつもどおりに。
                   ―――――――――――――どうやって?
 
「なんだろう、これ」
家に出る前、庭の片隅で、血を見た。
 
ワスレタノカ
 
「え?」
 
これは昨日貴様が自らの手で
 
声はどんどんはっきりしてくる。
その声は――――――――――――
「桜がそんな奴だとは思わなかった」
「先輩」
先輩の声だったり
「幻滅したわ。その程度の人間だったのね、貴女」
憧れていた(恨んでいる)姉さんだったり。
 
思い出した。
それはすんなりと、私の頭に巡った。
 
私は先輩と姉さんを傷つけ、
お爺様を殺し
兄さんを殺し
町の人から魔力を吸い取るという名目上、殺したんだ。
「あ、あは、何だろう」
負の気持ちが溢れてくる。
 
辛いのは嫌だ
痛いのは嫌だ
死ぬのは嫌だ
 
だから、強くて硬い殻を纏って
硬く硬く閉ざしてしまいましょう。
 
そして私はいつもどおり、坂道を下り、先輩の家に向かう。
スキップしながら。
 
辛いのは、もう終わり
 
 
 
 
もうすぐ、もうすぐアレが来る。
その前に、私は力を蓄えなければ。
 
 
 
ごおっと轟き、私の影から影よりも濃い黒いモノが飛び出し、町を包み込む。
 
「少し早いですけど、食事の時間です♪」
 
 ―――――――――――――――――――――――――――  
Last updated at :2007/10/31(Wed) 18:32
Publish at :2007/10/31(Wed) 18:29

  • キャスター愛の劇場(1)
  • 紅い涙 始
  • 紅い涙 序
  • ホームページ制作、ホームページ作成歯医者SEOインプラントインプラント0000458978000045897800004589780000458978